かつて、終身雇用制が定着していた日本では、「大学卒業後に就職した会社で生涯働き、定年を迎えること」が一般的だった。しかし、産業構造の変化や働き方の多様化、少子高齢化による人口減少などから、キャリアに対する考え方は大きく変わった。ここでは時代の変遷に合わせて変化した各大学の「キャリア教育」事例を紹介する。
就職指導重視から、キャリア支援にシフト
前述の通りキャリアに対する考え方は大きく変わり、社会人として自立した人を育てる観点からキャリア教育の重要性が指摘されるようになり、2011年1月の中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」で、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義づけた。このような流れを受けて、大学は、企業理解や職業理解、面接・履歴書指導など、これまで行ってきた「就職指導」を軸においたサポートから、学生が大学での学びと卒業後のキャリアを結びつけ、将来なりたい姿を自ら設計していけるよう指導する「キャリア教育」へとシフトし始めている。

近年の企業の動きに注目すると、新卒採用に対する考え方が様変わりしつつあることがわかる。これまでは、職務を限定せずに採用し、入社後に配属先を決める「メンバーシップ型雇用」が定着していたが、日立製作所やKDDIのように、職務内容を特定し、職務遂行能力を持つ人材を採用する「ジョブ型雇用」を新卒採用で導入しているケースもある。大学は、こうした変化に柔軟に対応しながら、キャリア教育のあり方を追求してきた。
大学主導のインターンシップを繰り返し行うコーオプ教育
現在、多くの大学が企業等で就業体験を行う「インターンシップ教育」を行っているが、一部の大学では、それを拡大した「コーオプ教育」を行っている。コーオプ教育は北米を中心に広まり、大学主導で複数年にわたってインターンシップを繰り返すものだ。海外では有給のケースが多い。
国内では京都産業大学や東京工科大学が早くからコーオプ教育に取り組んでいる。京都産業大学は、コーオプ教育の取り組みの一つである「O / OCF(オン/オフ・キャンパス・フュージョン)」が、2004年度、文部科学省「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に、東京工科大学のコーオプ教育は2015年度、文部科学省の「大学教育再生加速プログラム(AP)」に採択された。他に、金沢工業大学(KITコーオプ教育プログラム)や立命館大学(コーオプ演習)、和歌山大学(コーオプ型インターンシップ)など、複数の大学がすでに導入。2024年度には、茨城大学が国立大学で初めて、コーオプ教育を必須とする新教育課程「地域未来共創学環」を設置した。また、広島大学も情報科学部(実践履修モデル)で、大学3年次後期と4年次後期に4か月間ずつ、グローカル企業に有償で勤務し、実際の業務や課題に取り組むグローカルコーオプ教育を導入している。
大学独自のキャリア支援で人生を生き抜く力を授ける学習院大学
1949年に開学した学習院大学は、人文・社会・自然科学にわたる6学部20学科を擁する総合大学だ。都心の緑豊かなキャンパスで学び、少人数教育を通じて教職員と学生が対等に議論するのびやかな校風に特徴がある。この学習院大学でキャリア支援の改革を主導してきたのが、キャリアセンター担当次長の淡野健氏だ。「大学での4年間は、社会人になるため準備・助走期間である」との考えから、学生が自らの人生を「自分ごと」として捉え、自走する力を育めるよう支援している。
学習院大学 キャリアセンター 担当次長 淡野 健氏
同大学のキャリア支援の核となるのが、淡野氏が考案した「大学生活の4つのキャリア領域」というシートだ。「学業・学業以外」「学内・学外」の4つの領域に分かれており、学生は入学直後と3年次の4月に、このシートを用いて自身の歩みを可視化する。
「事実だけを書くのではなく、なぜ取り組んだのか、どのように行動し、何を得たのかという『プロセス』を言語化するよう指導しています」と淡野氏。他者の意見を鵜呑みにせず、学業や課外活動など興味あることを経験し、時には失敗もしながら多くの気づきを得てほしいと願っている。
大学3年の4月には、「就職GUIDE BOOK」を配布する。「大学生活の4つのキャリア領域」の書き方が記されているほか、就職活動の準備を「4つのステップ」に集約して掲載するなど、シンプルでわかりやすい内容となっている。

イベントも時代に合わせてアップデートを重ねてきた。2025年度には、35年続いた「面接対策セミナー(メンタイ)」をブラッシュアップし、学生が「OB・OGとの対話」や「個別相談」などのプログラムを自由に選択できる「キャリアフェスティバル(キャリフェス)」へ刷新した。
「学習院大学は卒業生とのネットワークが伝統的に強く、メンタイ時代から卒業生を呼んで、直接、学生たちに面接対策の指導をしてもらってきました。キャリフェスでも卒業生が学生と対話し、自身の経験やリアルな姿を伝えています」
卒業生だけでなく、保護者との連携も重視している。毎年、夏になると、淡野氏は3年次の学生に「両親をOB / OG訪問相手だと思って質問してみよう」と指導する。
「どんな人生を送ってきたの?」「働く楽しさって?」「失敗談も教えて」――子の問いかけに対して、保護者自らが失敗談や仕事のやりがいを語ることで、学生は「キャリア」への解像度をさらに高めていく。
社会や企業の変化が加速するなか、大学のキャリア教育には、就職先を決めるための支援だけでなく、学生自身が考え、選択し、行動する力を育むことが求められている。予測困難な時代だからこそ、大学には「正解」を示すのではなく、学生が試行錯誤を重ねながら、自らのキャリアを切り拓いていける環境づくりが重要になっている。