近年、アントレプレナーシップ教育に取り組む大学が増加傾向にある。アントレプレナーシップは「起業家(企業家)精神」と訳され、新しい事業を創造する意欲や新たなことに果敢にチャレンジする姿勢や能力、行動を指す言葉である。茨城大学(アントレプレナーシップ教育プログラム)や神奈川大学(チェンジメーカーズコミュニティ)、岐阜大学(アントレプレナー育成プログラム〜野心よ集え〜)などが、アントレプレナーシップの育成に力を入れている。
加速する産学官連携の動きとインキュベーション施設の設立
2022年11月、政府は「第13回新しい資本主義実現会議」において、「スタートアップ育成5か年計画」を決定し、2022年度第2次予算において、スタートアップ関連の施策に約1兆円の予算を計上。「2027年度までの5か年で日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出する」ことを目標に掲げている。目標実現のために政府は各種施策を打ち出しており、その一つが「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」である。ディープテック分野の研究機能とインキュベーション機能を兼ね備えたフラッグシップとなる拠点の創設を促す。具体的には、東京都の渋谷区と目黒区にまたがる国有地にイノベーション拠点の創設を予定している。
この他、大学等におけるスタートアップ創出に関して多数の施策が打ち出されている。「大学発医療系スタートアップ支援プログラム」は、全国のアカデミア等の優れた基礎研究の成果を臨床研究・実用化へと効率的に橋渡しするための支援を行うことを目的としている。2024年度の公募で10件の応募があり、国立大学法人九州大学など4機関が採択されている。「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」は、大学・公的研究機関等で生まれた科学技術に関する研究成果の社会還元を目指す技術移転支援プログラムだ。ステージⅠ(育成フェーズ)とステージⅡ(本格フェーズ)があり、2025年度にはステージⅠが58課題、ステージⅡが14課題採択されている。
「スタートアップ育成5か年計画」の本格始動により、アントレプレナーシップ教育を導入する大学はさらに増加している。2023年には、同志社大学が全学共通教養教育科目「アントレプレナーシップ論」を新設。以前からアントレプレナーシップ教育や起業支援を進めてきた名古屋大学は、全学部の1年生を対象に、起業家精神を育む「アントレプレナーシップ教育」を必修科目とした。また、上智大学は、卒業生がCEOを務めるスパークス・グループ株式会社の協力のもと、全学部生を対象とする正課外講座「アントレプレナーシップ養成講座」を実施。東京経済大学は2026年度より経営学部経営学科現代経営コース生(2025年度以降入学者)を対象に「アントレプレナーシップ養成プログラム」をスタートさせた。

また、武蔵野大学(アントレプレナーシップ学部)や専修大学(経営学部ビジネスデザイン学科)のように、アントレプレナーシップや起業、ビジネスデザインに特化した学部・学科を設置する大学も出ている。
当事者として課題を探究し自走する力を育む京都産業大学

文理融合型の正課教育「アントレプレナーシップ科目」群は、全学部・全年次生が履修でき学部を越えた交流が進む
経済・経営・法・現代社会・国際関係・外国語・文化・理・情報理工・生命科学の10学部を擁する京都産業大学は、全学部が1つのキャンパスに集う「一拠点総合大学」だ。同学は、起業やビジネスプランの考案に関心を持つ学生の広がりと社会的要請を背景に、文理融合型の正課教育と課外の活動支援を一体化した全学部生対象の「アントレプレナー育成プログラム」を2023年度に導入。このプログラムが、アントレプレナーシップ学環開設の発端となった。
「プログラム設計当初から学位プログラム化も視野に入れており、実際に学生から『自分のビジネスに4年間没頭できたら』という声が多く、そうした期待に応えるため、計画推進に至りました」と、アントレプレナーシップ学環長の中谷真憲教授。学生の期待は、一つの学問分野を深く学ぶことよりも、自分のビジネスを探究しながら必要な知識を広げていくことにある。そのため、「学部」ではなく、複数の学部が連携する分野横断型の「学環」とし、経営・法・現代社会の3学部を軸に置いた。ビジネスに文系・理系の境界がないように、自然科学系の専任教員も配置し、理系のセンスも磨く。
加えて、教員の伴走を経て、学生自身が「自走」していくことを重視しており、その核となるのが、2年次に始まる「セルフ・カルチベーション」だ。企業から与えられた課題の正解探しに取り組むのではなく、自らの「問い」を原点にビジネスの目標を定め、試行錯誤を繰り返しながら学び続ける。
「セルフ・カルチベーションは自己開拓を意味する言葉。自分の人生を自分で描くオーナーシップを磨く教育です」

京都産業大学アントレプレナーシップ学環セルフ・カルチベーションⅠ〜Ⅲ 各自が企画を練り、アイデアをカタチにするための試行やビジネスコンテストへの出場など、教室を飛びだして挑戦。成否の要因や不足を仲間と語り合い、新たな視点を得て、ビジネスプランや自らをアップデートしていく
学生からの「こういう事業に挑戦したい」という提案に対して、教員は学生が自ら考えている「未来像」に結びついた実践的な内容になっているか確認し、アドバイスをする。そして、卒業生や産業界とのネットワークを活用し、必要に応じて学生と社会をつなげていく。このほか、起業家から経験談を聞く「スタートアップワークショップ」や、海外に渡航してビジネスの種を探す「海外起業フィールドスタディ」などの「実践的な科目」と「理論や専門知識を学ぶ科目」を並行して履修し、時には他学部の学生と一緒にプロジェクトを立ち上げたり、時には大学の外に出てビジネスコンテストに出場したりしながら、起業家精神と自走する力を養っていく。
なお、アントレプレナーシップ学環の開設にあたって、京都産業大学は「特色ある探究学習」を実施している33の高校を訪問した。「『探究』を核に、高校3年間とアントレプレナーシップ学環4年間の学びを接続し、7年にわたるイノベーション教育へとつなげていくことで、新たなビジネスやこれからの社会の当事者が、もっと生まれていくでしょう」
2026年に入学した第1期生は、すでに起業を経験している学生や、自ら行動を起こしたいと考える学生が多く、家業の継承を出発点に新規ビジネスへ挑みたいという学生も一定数いるという。京都産業大学は今後も高校訪問を継続し、探究心と挑戦心を抱く「未来の当事者」を受け入れていきたいと考えている。
新規事業創出を支援するインキュベーション施設の設立
大学のアントレプレナーシップ教育に関する最新動向を読み解くうえでキーワードとなるのが、「産学官連携」や「社会連携」だ。地方自治体やNGO・NPO、地場の企業との連携により、地域と社会を結ぶインキュベーション施設を設立し、新規事業の創出や人材育成を推進する動きが出ている。
関西学院大学は、兵庫県、三田市との間で「神戸三田国際公園都市の地域振興に係る連携協力協定」を締結し、この協定に基づいて「Co-Creation Village(C-ビレッジ)」を2025年4月、神戸三田キャンパスの近接地に開設している。
筑波大学は、つくばエリアに集積する、大学や行政などの多様なリソースを活用し、企業が共同開発研究を主体的に進める拠点「IMAGINE THE FUTURE. Forum(ITF.F)」を、2028年3月竣工予定で整備する。
龍谷大学は、大阪ガス都市開発と京都信用金庫の3者で「共創HUB京都コンソーシアム」を組織し、京都市が保有する土地を活用して地上8階建てのイノベーションハブ拠点を2028年度春の運営開始を目指すとしている。
2012年に、キャリア教育を行うことが大学設置基準に定められて以来、どの大学に進学したとしても、一定のキャリア教育を受けることができるようになった。キャリア教育の視点から大学選びを行う際には、留学制度の有無や志望する学部・学科のカリキュラムなども併せて確認し、総合的な視点から、「興味・関心に合わせて広くさまざまなことに挑戦し、キャリア形成に前向きに取り組める環境があるか」を判断すると良いだろう。