日本有数の「ものづくり技術の集積地」に誕生した三条市立大学。工学に特化した単科大学で、マネジメント科目を強化し、即戦力になりえる人材を育成する。注目は、地域全体をキャンパスとして捉えた意欲的な経験実習。その成果をアハメド シャハリアル学長が語った。
ものづくりのまち・燕三条で学ぶ
工学×マネジメント×産学連携実習で大きな学びの面積をつくる
新潟県の中央に位置する三条市・燕市エリアは、世界に名だたる金属加工製品の産地である。包丁や鍋などの調理器具、また様々な工具など、多彩な「メイドイン燕三条」製品が、国内外のユーザーから高い評価を得ている。
そのものづくりのまちで、2021年4月に産声を上げたのが三条市立大学だ。開学の目的は、当地の300年の歴史あるものづくりを、いかに持続し高度化していくか、ということ。そのため学部は「工学部 技術・経営工学科」の単科とし、多様な工学の知識や技術に加え、得られた知見を活かすためにマネジメントの知識を教授し、プロジェクト演習(PBL)によって自らの感覚にコンバージョンさせている。
また他にない取り組みとして、地域のものづくり企業を中心とした190社以上と連携し、実習を実施。学生は2年次で6週間、3年次は16週間というロングスパンで、企業の中で実際に「企画」「開発」「生産」という異なるプロセスを実体験する。
つまり三条市立大学においては地域全体がキャンパスであり、各社で醸成させてきた技術やプロフェッショナリズムなどを、社員や職人の姿・言葉を通して学ぶことができる。開学の数年前から同大学の教育設計に携わってきたアハメド シャハリアル学長は、その学びをこう語る。
「産学連携実習の受け入れ企業からはよく、学生の成長を褒められます。本学で得た工学の知識や技術を現場で活かすことはもちろんですが、挨拶やものの尋ね方、お礼の仕方など、人間力やソフトスキルが長けている、と。こういう学生たちなら、どこへ行っても通用すると太鼓判を押していただき、本学の目標である『多角的な学びを融合して、豊かな経験と創造性を兼ね備えたイノベーティブテクノロジストの育成』が、狙い通り進んでいると確信しています」
三条市立大学 アハメド シャハリアル学長
未来志向のものづくりのため、デジタル領域の学びを拡張
三条市立大学では2027年度より、新カリキュラムの導入を予定している。
2030年には先進IT人材が約54万人も不足するとの調査結果もあり、「加速度的にデジタル化が進む世の中では、ものづくりにおいてもデジタル分野の人材育成が求められるのは必至」とシャハリアル学長は考える。
「これからのものづくりにはコンピュータやデータを自由に扱う力に加え、分野を横断して新たな価値を創造する力が求められる。デジタルも様々あるのでどれを選ぶのか、これは大学の設計センスが問われるところ。単に技術を学ぶだけでなく、それを社会や組織の変革につなげる視点が不可欠で、現在のものづくりにもっと付加価値を与えることが重要だと思っています」
デジタル技術がものづくりを発展させていく
一方、デジタル・グリーン分野の学びは、「地域ビジネスの新たな成長機会にもつながる」と捉える。例えば包丁職人は、何度の熱で鉄を焼き、どの程度打ち叩けば包丁ができるかを、それまでの経験と勘を生かしてつくる。だがその行為自体が地球にどれほどの負荷をかけているか、どれだけカーボンを排出しているかには注視してこなかった。しかし今後は、ものづくりによる環境への影響や負荷を数値で測り、客観的に説明ができなければ世界の市場では存在感を示せないと言う。
「職人の技術にも科学の裏付けが必要です。時代のトレンドにピンポイントでフィットした学びを常に考え、高度なものづくりを支えていきたいですね」
与えられた技術を生かす。もの・仕組み・概念づくり
開学からわずか5年だが、「その手ごたえは大きい」とシャハリアル学長。
「学生は皆、目的意識がはっきりしているし、それを叶えるために精一杯学んでいます。また学生はもちろん、大学教職員や産学連携学習の受け入れ企業にも、新しいものを積極的に、柔軟に取り入れようという、成長志向のマインドセットが養われてきた。5年のあいだに、教育を取り巻く大人たちも着実に成長しているのです」
バングラデシュで生まれ育ったシャハリアル学長は、勤勉な日本人エンジニアに憧れ、1988年に日本へ留学。大学で電気工学を学び、大学院に進み博士号を取得した。その後は日本各地の大学で教鞭を執るなど経験を積み、三条市立大学の学長に抜擢された。日本に在留して38年、言葉の壁を苦心して乗り越えながら教育のありかたを見つめてきたシャハリアル学長は、自らを「一石二鳥では満足できないタイプ」と評する。どうせ一つ石を投げるのなら、戦略的に考え、いくつもの成果を出したい。そのための革新的なアイデアも、興味を持って納得がいくまで探っていくという。
美しいキャンパスはJR燕三条駅から徒歩圏内
現代では発達したテクノロジーにより、多様な情報が手に入る。例えば雨雲レーダーではいつ雨が降るのかはわかるが、その情報自体は雨雲を止めてはくれない。情報を用いて、どう濡れないように課題解決するか。その発想と実体化できる技術が求められる。
「学生がものづくりでその境地に辿り着ければ、既存の職人的技術もデジタル技術も、すべて活きてくる。ありとあらゆる、自分たちの幸福を招くものづくりやシステムづくり、概念づくりをして、ぜひとも世界を好転させる人になって」とシャハリアル学長は願う。
卒業後の活躍の場はなにも、製造の現場だけではない。ものづくりを行う地域の行政や金融機関でも販売の場でも、ものづくりに寄り添う政策・施策を打ち出す必要がある。それらすべてが地域創生の要素であり、その力が結集すれば、競争力の高い地域ができあがる。
「これを実現することが、燕三条エリアのサスティナビリティに貢献するということ。そのためにも大きな支援の輪をつくることが、肝心だと思っています」

三条市立大学
アハメド シャハリアル 学長
2000年:博士号(工学)取得
2001年:東京電機大学 フロンティア共同研究センター専任講師
2003年:新潟産業大学 経済学部 助教授
2015年:沖縄科学技術大学院大学 技術開発スペシャリスト
2019年:三条市大学設置プロジェクトリーダー
2021年:三条市立大学長
