北海道大学生命科学院博士課程2年生の加藤巧さんらの研究チームは、ゴキブリのメスを複数で飼育すると単為生殖(オスがいなくても、メスだけで遺伝的に似た子どもを産むこと)でメスだけのコロニーを長期間維持できること、その背後に、メス同士が狭い場所で飼育されたときに卵鞘(複数の卵の入ったカプセル)の形成を促進し、同調させるメカニズムが存在することを明らかにした。

 動物の中には、オスがいるときは有性生殖で、メスだけのときには単為生殖に切り替える「条件的単為生殖」を行う場合がある。全世界に広く分布している家屋害虫の代表格ゴキブリが単為生殖能を持つことは古い文献で紹介されているが、認知度は低く、そのメカニズムの研究は進んでいない。そこで研究グループは、ゴキブリの単為生殖を促進する要因について調べることで、同じように世界に分布しているシロアリなどの昆虫グループの繁栄の一端を明らかにしようと試みた。

 実験では、互いに接触できる小さめのプラスチック容器に成虫脱皮直後のワモンゴキブリのメス成虫を1匹~複数匹入れ、餌や水を十分に与え、単為生殖の卵鞘がいつ形成されるのかを2ヶ月以上にわたって観察。その結果、メスを単独で飼育した場合、個体間でばらつく傾向など見られたが、メスを3匹一緒に入れると卵鞘がより早く形成されることがわかった。一方、交尾できないオスと一緒にした場合、触角を切断されたメスを複数で飼育した場合は、正常個体に比べ卵鞘形成は遅くなり、メスが出す性フェロモンを容器に入れた場合も卵鞘形成への促進効果はなかった。以上の結果から、卵鞘形成促進には他個体の出す匂いなどの化学物質や機械的接触を触角などの感覚器で受容することが重要であることがわかった。

 複数のメス同士が狭い場所で飼育された場合の卵鞘形成の促進と同調は、単為生殖による子孫の数を増やすとともに生存率の向上に寄与すると推測され、このことは複数のメスが単独メスよりもはるかに安定的に長期間コロニーを維持できる事実をよく説明するものであり、真社会性の獲得に通じる協力行動の萌芽とみなすことができるという。

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