Human behaviour: Familiarity with police officers could reduce crime
地元住民にその地域を担当する警察官たちに関する情報を提供すると、犯罪率が低下する可能性があることを示唆する論文が、Nature に掲載される。実験室での研究と現地調査の結果から、私たちの匿名性の感覚は、他人が自分たちについて何を知っているのかだけでなく、自分たちが他人について何を知っているのかにも依存していることが示唆された。
他人との社会的関係は対称的なものだと思われがちだが、必ずしもそうとは限らない。今回、Anuj ShahとMichael LaForestは、実験室内での標準的な心理学研究を実施し、他人のことをもっと深く知るようになると、その人が自分のことをもっと深く知っていると信じ込むようになる可能性があることを明らかにした。私たちの匿名性の感覚が低下して、自分の考えや行動が他人に明らかになっているかもしれないという過大な認識を持つ可能性があるという。これまでの研究では、自分の匿名性が保たれていると認識していると、不誠実な行動や有害な行動が増える場合があることが示唆されているが、他人が自分のことをよく知っており、自分の行動に慣れていると思うようになれば、匿名性の感覚が行動に及ぼす悪影響の一部を減らせる可能性がある。
著者たちは、室内実験で明らかになった社会的関係の非対称性が人々の認識と行動にどのように影響するのかを解明するため、米国ニューヨーク市の公営住宅団地69か所を選び、そのうちの39か所では、地元の警察官たちに関する情報(好みの食べ物、好きなスポーツチーム、趣味など)を住民に提供し、残りの30か所では、対照群として何の介入も行わなかった。次に、著者たちは、1858人の住民を対象に調査を行い、警察官たちが自分について何を知っているかという点の認識と、自分が罪を犯した場合に警察官がそのことを把握する可能性がどの程度高いかという点の認識を評価した。著者たちは、介入直後の3か月間の犯罪件数が、警察官たちに関する情報を受け取った地域では、受け取っていない地域と比較して約5~7%少なくなると推定した。この犯罪の減少率は、同じ地域内で警察官を増員した場合と同等だった。
著者たちは、地元の警察官たちについて詳しく知るようになった住民は、警察官たちが自分たちの違法行為をより的確に把握できるようになったと思うようになり、その結果、住民の犯罪行動が抑制される可能性があるという考えを示している。このことは、警察官の家庭訪問が、その他の地域警備活動(例えば、住民の連帯と地元警察の協力による防犯や店頭警備)よりも犯罪を減らす上で効果的である理由を説明する上で役立つかもしれない。著者たちは、警備の人種・民族間格差を減らし、警察への信頼を高めるためには、もっと広範な改革が必要だが、地域社会に対して地元の警察官たちに関する情報をより多く提供することが犯罪を減らす方法の1つになるかもしれないと主張している。
[英語の原文»]
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「人間行動学:地元の警察官を知れば知るほど犯罪が減るかもしれない」