麻布大学獣医学部の伊藤潤哉教授をリーダーとする研究チームは、マウス未成熟卵の効率的なガラス化保存法の開発に成功したと発表した。
現在、医学分野をはじめとする様々な分野で、ヒトの疾患モデルとなる遺伝子改変マウスやラットが多く開発・利用されている。これらのモデル動物は、生体で維持するとなると膨大なスペースと費用が必要となってしまうため、通常は受精卵の状態で液体窒素中に超低温保存される。一方、受精前の未受精卵の状態で保存することができれば、交雑種などを容易に作出することが可能となるが、未受精卵の保存は難しく、保存後の受精能が低下してしまうことが問題となっていた。
本研究チームは、これまでの研究で、マウス未受精卵のうち、受精可能なステージである成熟(第二減数分裂中期)卵の超低温保存法(ガラス化保存法)の開発に成功している。しかし、未受精卵のうち卵巣内に存在する未成熟卵(第一減数分裂前期)の状態での保存に関しては、他のグループによる成功例はあっても、効率が著しく低かった。
そこで今回、本チームは、最小容量ガラス化法による未成熟卵のガラス化保存法の改良・開発を目指したという。その結果、従来の保存液に含まれていたカルシウムを除去し、凍害保護剤としてエチレングリコールを用いた保存液を使用すると、保存した未成熟卵のうち約半数が受精し、胎盤胞まで発生できることがわかった。さらに、その受精卵を代理母に移植した結果、従来は10%程度であった産子への発育率が、約35%にまで向上した。
本成果は、バイオリソースなどの遺伝資源の保存に大きく貢献すると考えられる。また、未受精卵の保存は、今後ヒト生殖医療においても重要な技術となると考えられ、ヒトの未受精卵の保存にも本技術は応用できる可能性が期待される。