中部大学創発学術院の松田一希准教授らの研究チームは京都大学と共同で、テングザルの雄は体格があり鼻が大きいほど犬歯が小さいことを発見した。傷つけずに相手に勝つ効率的な戦略としている。

 テングザルの雄は霊長類の中でも特に鼻が大きく長い。研究チームはこれまで、鼻の大きさは声の音域と関係し、雄の肉体的な強さと高い繁殖能力を保証することを解明。大きな鼻は雌を魅了する武器でもあり、鼻で互いの強さを推し量り、雌をめぐる無駄な争いを避けていることが示唆されている。

 一般にヒトを除く霊長類では、雄は鼻ではなく犬歯が大きいほど強い個体であり、闘争での勝利と雌の獲得に有利だ。テングザルの社会はハーレム型の群れが集合した重層社会で、ハーレムに縄張りがないため雌の争奪戦が激しく、強い雄ほど大きな犬歯を持つと研究チームは予想していた。

 ところが、テングザルは強い雄(体格が大きい)ほど犬歯が小さいと判明。雄同士は、大きな体格で枝を揺すり、強い雄の勲章である大きな鼻を使った鳴き声を発することで間接的に競争相手と戦い、犬歯による激しい闘争の末の致命傷を回避していた。

 また、犬歯が大きすぎると食べ物の咀嚼に不利になる。エネルギー効率の悪い葉っぱを主食とするテングザルは、犬歯の発達をほどほどにし、効率良く食物を摂取して体格を大きくした方が、雄間競合に打ち勝つ上では有利な進化上の戦略だったとみられる。

 今回の研究成果は、性を巡る競争(性選択)と生きる上での競争(自然選択)の相互作用により、形質のトレードオフ(一得一失)が進化した興味深い現象であり、ヒトの重層(階層)社会や言語発生のメカニズム解明につながることが期待される。

論文情報:【Communications Biology】Large male proboscis monkeys have larger noses but smaller canines

大学ジャーナルオンライン編集部

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