慶應義塾大学医学部の研究グループが、ヒトiPS細胞から心臓の筋肉となる心筋細胞を高純度でつくる方法を開発しました。より安全性の高い心筋細胞を簡便かつ比較的安価に作製できる技術として、今後は学内の委員会に臨床研究の申請をする予定です。

 心筋細胞は、心臓が全身に血液を送る上で欠かせない心筋をつくるものですが、病気などで失われてしまうと哺乳類では再生ができず、心筋の収縮する力が低下してしまいます。

 再生医療に関しては、あらゆる体細胞へ分化できる能力を持つとされるES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞が注目されています。しかし未分化幹細胞のすべてを目的の細胞へ分化誘導することが難しく、分化できない細胞の中に腫瘍の原因となる細胞が混入する点が課題でした。

 同大学医学部の遠山周吾助教、藤田淳特任講師、福田恵一教授、末松誠教授(現・日本医療研究開発機構理事長)らの研究グループは、未分化幹細胞ではグルコースの消費が活発であること、心筋細胞は乳酸をエネルギー源とすることを明らかにし、培養液からグルコースを除去し乳酸を添加して未分化幹細胞を除く方法をこれまで報告しています。しかし、これだけでは未分化幹細胞が完全に死滅するのに時間がかかっていました。

 そこで今回はグルコースとともに未分化細胞で消費の活発なグルタミン・アルギニン・セリン・グリシンの4つのアミノ酸に着目。これら4つとグルコースを除去した培養液でヒトES・iPS細胞を培養したところ、除去しない場合と比べて劇的に死滅することがわかりました。
次に培養液から細胞の生存に必須のグルコースとグルタミンを除去、かわりに心筋細胞のエネルギー源となる乳酸を添加して理論上「未分化幹細胞は生存できず、心筋細胞のみが生存できる」環境を作ったところ、未分化幹細胞は完全に死滅し、心筋細胞だけを生きたまま選別できることが確認されました。

 今回の研究で「特殊な培養液に交換する」という単純かつ比較的低コストな工程により、高純度の心筋細胞の作製が可能となりました。ヒトiPS細胞から分化させた心筋細胞を用いて心臓再生医療を行う際、安全性の高い心筋細胞を大量に得るために重要な技術になると期待されます。

慶應義塾大学

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