江戸川大学・国立公園研究所は、日本では唯一、国立公園の研究に特化した研究所である。昭和4年(1929年)に設立された財団法人国立公園協会が、平成24年(2012年)春に解散。その際、自然保護分野の教育に力を注いでいるということから、国立公園協会が所有する書籍等が江戸川大学に寄贈された。これを機に、さらに国立公園研究を充実すべく国立公園研究所が設立された。
今回、国立公園研究所所長で社会学部現代社会学科の奥山正樹教授と研究協力員の川辺太郎さんに国立公園研究所についてお話を伺った。

 

江戸川大学国立公園研究所所長の奥山正樹教授(社会学部現代社会学科)

日本の国立公園における自然保護と利用

「私自身は、野生動物が好きで自然保護に携わりたくて環境省に入省し、長らく自然保護行政に従事していました。2024年より国立公園研究所の所長に就任しましたが、現在は、以前に比べて国立公園、自然保護に関する様相が少し違ってきているように感じています。特定の生物が増えすぎて人との軋轢を起こすというような事案も増えるなど、単純に従来の自然保護では対応しきれない場面も増えてきています」と奥山教授は言う。

 1872年、アメリカでイエローストーン国立公園ができて以来、「国立公園」という手法で自然を保護する思想が全世界に広がり、日本では1934年、初めての国立公園が指定されて以降、現在までに35カ所が指定された。

奥山所長:「国立公園は、自然の風景を保護の対象にして、それを利用することを目的としてきましたが、時代の流れとともに風景だけでなく、その風景に含まれる動植物も重要なものだという風に考え方が変わってきました。美しい自然の風景がつくりだされるには、野生生物などが目に見えないところで重要な役割を果たしている、そういうところまでトータルで捉えようという生物多様性の概念が広がり、もともと国立公園は『造園学』の分野をベースに研究されてきましたが、今は生態学やエコツーリズム、観光学などと結びついて、学問としても様々なアプローチがされるようになりました。

 近年、生物多様性の観点から世界が目指す姿を、『自然共生社会』と表現するようになってきています。最も代表的な保護地域である国立公園は、自然と人間がサステイナブルに共生できる社会を目指すための非常に重要なツールなのではないかと考えています。

 しかし、一口に国立公園といっても、それぞれの国で国立公園の在り方も異なります。アメリカやオーストラリアのような国土の広い国の場合は、営造物と言われるように国立公園の土地は、公園専用の土地として国が管理・所有していますが、日本の場合は、スタートから公園として専有できるような土地はほとんどありませんでした。ですから、自然風景として魅力があって、国民の共通の利用に供すべき場所を、土地の所有に関わらず指定を行う『地域制自然公園制度』を採用しています。国立公園内に住む人や多くの私有地も含まれているため、その管理は、多様な主体の連携による『協働型管理運営』で行われているのが、日本の特徴だと思います。

 日本の風景美の一つである里海、里山の自然も、国立公園の中に多く含まれています。こうした自然は人手が入ることで保たれてきました。しかし、最近は過疎化によって荒廃してしまっている場所もあり、野焼きや造林など、人手が加わることで保たれてきた自然に依存しているような野生生物が絶滅に瀕したり、一方で保護によって、逆に特定の野生動物が増えすぎてしまったりと、人との関わりの中で、自然を保護しながら生態系のバランスを保っていくことはとても難しい課題です」

江戸川大学の国立公園研究

 社会学部現代社会学科の卒業生で、国立公園研究所で資料整備などに研究協力員として従事する川辺さんは、「私は、自然保護を学べる大学を探していました。入学するまでは、人は自然を開発するから悪者だという、All-or-nothing thinkingのような少し過激な自然保護に対する考え方を持っていたのですが、人が守る自然にも価値があるし、人が利用する自然にもまた別の価値があるんだということを、江戸川大学で学びました。これは日本の国立公園の地域制の考え方ととてもリンクしていて、日本の国立公園について学んだり、実際に行ってみたりすると、日本の自然、国立公園の良さがわかってくるように思います」と話す。

 自然保護というと、イコール理系の学問分野という風に捉えられがちだが、江戸川大学では『国立公園』をテーマに、社会学としての側面から自然保護や自然共生社会なども研究している。

国立公園研究から自然共生社会へ

奥山所長:「世界の自然保護の動きや保護地域として国立公園がどのような役割を果たしているのか、どのような経緯で指定されて、何を重視して指定された公園かというのは、各公園でそれぞれ違い、各公園が保護と利用のバランスの中でいろいろな課題に取り組んでいます。国立公園という名前はもちろんみんな聞いたことがあるけれど、実際にどこが指定され、国立公園として何をしているのかということは、本当のところよくわからないというのが実情でしょう。だからこそ、そういうことも一つずつちゃんと伝えていくのも名前に国立公園を掲げている研究所としての役割ではないかと思っています。

 現在は、年報の発行に加え、幅広い方々に国立公園、自然保護、自然共生社会について興味を持ってもらう、堅苦しくなく、まずは知ってもらうきっかけとなるように『国立公園映像コンサート』を毎年開催しています。

 今後も、国立公園を関する研究を進める中で、国立公園研究・教育を行っている他大学、環境省や地方自治体、民間の機関や国立公園に携わるナチュラリストやインタープリターの方々とも協力、連携を取りながら、自然共生社会を目指した取り組みに貢献していきたいと考えています」
国立公園映像コンサートの様子

江戸川大学

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