科学の甲子園全国大会出場経験者に、予選や本大会に向けて仲間と切磋琢磨した思い出、それが進路選択、大学入学後の活動、学問・研究の進め方に与えた影響などを振り返り、参加の意義について語ってもらいました。


どのようにたくさんの星が集まって銀河ができるのか。その謎を解明したいと、私たちに最も身近な銀河、天の川銀河について研究を続ける谷口大輔さん。アマチュア天文家の父親の影響で、小学生の頃から天体望遠鏡をのぞき、星の写真も撮ってきた。高校時代、星などのモノがたくさん集まることで起きる現象にも興味を感じるようになり、それが天体観測と自然に結びついたのが今の研究だ。大学進学時にはすでに、一刻も早くそれを究める道へと進みたいとも考えていたという。 それもあって大学入学後は、専門課程に進む前から、天文学専攻の松永典之助教を訪ね、課外で研究の指導を仰ぐようになった。スタートが早かった分、サイエンスコミュニケーションや高校の出前授業など、将来、研究者として求められる活動も多く経験できたと言う。

もちろん研究者として、実績も上げ始めている。「星々はお互い重力で引きあっていて、その動きは高校でも学ぶ万有引力の法則F=GMm/r^2をベースに記述できます。しかし一つひとつの星の運動はこんなに簡単な方程式で表されるのに、それが集まってできた集団である銀河はさまざまな形や運動、性質を持ちます。渦巻き構造などもその一つ。とても不思議ですよね。また周りの銀河との相互作用によっても形や性質が変わることも知られています。

これらの謎を解く一つの方法は、一つひとつの星を詳細に観測すること。さいわい、宇宙には数多くの銀河がありますが、その中でも天の川銀河はわれわれに最も近く、観測しやすい。私が観測する星として着目したのは、ペテルギウスやアンタレスに象徴され、太陽のおよそ10以上の重さを持つ赤色超巨星。とても重く寿命は短いですが、膨張し、すごく明るくなっているため、遠くにいても観測できる。天の川銀河にはそれらがたくさん散らばっているから、しらみつぶしに観測していけば銀河全体の今の姿を知ることができるのではないかと考えました。

ただ、赤色超巨星は太っていて、ぶよぶよと振動し、対流も起きていて、表面は希薄で最近ではきれいな球形ではないことも分かっています。そのため、この《変な星》を天の川銀河理解のベースとしていいのかという疑問もある。だからこそ、それを使って天の川銀河を研究する前に、まずはそれ自身の理解を深める必要があるのです。いずれにせよ、3、4年かけて赤色超巨星の表面温度を正確に測定するところまでは辿り着きました※。まだまだ課題は多いが、今後も天の川銀河と赤色超巨星との二本立てで研究を続けていきたい」と谷口さん。

科学の甲子園全国大会には第1回と第2回に参加した谷口さん。また2019年には、2月恒例の大会前の記者発表にもOBとして顔を出してくれた。第2回では4位とあと一歩及ばず、チーム全員で表彰台に登れなかった悔しさも経験した。

科学の甲子園に出たきっかけは、中学から入っていた物理研究部の先輩からメンバーに誘われたこと。第1回と初出場とが重なった高校1年の時には、予選通過し全国大会で8位。主力メンバーとして臨んだ第2回大会では4位と健闘したが惜しくもスポンサー表彰を逃した。参加してよかったことは「チームのメンバーとの間で、部活やその他の日常生活時以上に仲間意識が強まった」ことと振り返る。なぜなら、「当時は部活も、どちらかというと一人ひとりが好きなことをするという雰囲気。しかし科学の甲子園では、チームでなければ解決の難しい教科横断的な課題に取り組む必要があるから」だと。

最近は天の川銀河の研究に加え、《天文学と気象学を融合した》ユニークな研究※※も始めているが、この研究でタッグを組むのが同じ大学の地球惑星科学専攻博士課程3年の山崎一哉さん。実は科学甲子園を目指して頑張る中で仲良くなった中1や、高3の時の同級生だ。

「山崎君とは最初はたまに話をするぐらいの関係でしたが、科学の甲子園を通じて急速に親しくなり、高校卒業後も、同じ大学・学部へ進んだこともあり、お互いの専門について定期的に情報交換するなどしてきました。この研究もそんな中からアイデアが固まってきたもの。気象衛星を使うと、一年中コンスタントにベテルギウスの画像が得られる。山崎君は数値シミュレーションなどを活用した気象学が専門で、気象衛星のデータの扱いがうまい」と連携の効果に期待を込める。

科学の甲子園では、国際科学オリンピック、その国内予選と違って、あくまでチームで切磋琢磨することを重視する。また筆記競技だけでなく、手を使った工作(実技)や実験が豊富で、総合得点に占
めるウエートも高いため、各教科の学業成績だけがものをいうわけではない。

「最近は中高一貫の進学校が上位に顔を出すことも多いようですが、実技や実験重視は変わっていないから、こうした学校の生徒にとっても、泥臭く手を動かして、しっかり考え仲間と議論することの大切さを知る良い機会になると思います」と谷口さん。

「実際、『甲子園の土をできるだけ多く入れる容器作り』(第1回)などの総合競技や、『灘の酒』(第2回)などの事前公開型実験競技、そして競技当日に向けた事前準備に取り組んだ経験は、現在、様々なデータを試行錯誤しながら解析する際にも活きています。またチームで取り組んだ経験は、仲間と議論しながら互いに研究を深めたり、協働したりすることが大事であることを知るきっかけになりました」とも。

最後に高校生へ向けて谷口さんは、「今年は残念ながら合宿形式の全国大会が開催されず、今の高3生は悔しい思いをしていると思いますが、その悔しさを、ポストコロナでの様々な活動にぶつけてほしい。また残された2年生や新入学の1年生は、来年の12回大会へ向けて、チーム一丸となって予選に向けた準備に臨み、大会を盛り上げてくれることを期待しています」。そして「たとえ予選突破できなくても、全国大会で上位の成績が収められなくても、予選へ向けての準備や予選会の経験、また他校選手との交流など、部活や探究活動とはまた違った、貴重な体験が得られるに違いありません」と結んでくれた。

※「太った星の体温測定」( MNRAS, 502, 4210:2021.3.1)
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7248/

※※「『気象衛星(ひまわり8号)を活用した時間領域恒星天文学』の創出」で令和3年度コニカミノルタ画像科学奨励賞の「連携賞」を受賞

さる3月19日㊏に各都道府県会場で分散開催された結果が、このほど、以下のように公表された。成績は筆記競技の総合得点(理科4分野、数学、情報各60点、計360点満点)による。表彰式は4月25日(月)。予選となる都道府県大会には総計666校、7,725人の生徒が参加した。

東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻

谷口 大輔 さん[博士課程3年]

(栄光学園中学高等学校出身)

大学ジャーナルオンライン編集部

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