2027年9月、東京大学にUTokyo College of Designが設置される予定だ。新たな学士・修士一貫の5年プログラムには開設前から注目が集まっている。そこで学部長予定者のペニントン・マイルス教授に話を聞いた。

デザインで社会課題を解決する そのための手法や知識を学ぶ
UTokyo College of Designは、従来の東京大学の卒業生とは異なるタイプの学生を育成することを目指しています。これは、多様な専門の人々と協力しながら社会課題の解決に積極的に関わり、世界にインパクトを与える学生の育成を目指す新しいプログラムです。ここで焦点となる社会課題とは、気候変動、社会正義、教育など、それぞれの学生が持つ課題意識や興味・関心によって様々なものが考えられるでしょう。
ここでいうデザインとは、プロダクトデザインなどの狭い意味でのデザインではありません。課題を理解し、その理解を解決のためのアイディアに変え、さらに現実の社会にインパクトを与える具体的な働きかけへと転換させるプロセスであり、独自の理論・方法論を備えた学術的、実践的な領域だと捉えています。 UTokyo College of Designは、デザインの手法を基礎から学び、より高度な手法やスキルを習得するとともに、東京大学の幅広い学術知を深く学び、チームや個人によるデザインプロジェクトを通じて、新たなコンセプトを生む力と、それを形にする実現力を備えたリーダーを育成するためのプログラムです。
学士・修士5年一貫制の教育課程 多様で柔軟な教育プログラム
UTokyo College of Designは学士課程と修士課程を一体的に設計した5年一貫制の教育課程です。日本では学士課程4年、修士課程2年が標準的ですが、ヨーロッパやアメリカでは教育課程は多様です。UTokyo College of Designは日本における従来の学士・修士課程とは異なるルートを提供することになります。単に学ぶ期間を短くするのではなく、5年間を通じて、基礎的な学び、領域横断的な学び、プロジェクト型学修、社会での実践、そして個人プロジェクトを連続的に積み重ねていきます。こうした一貫した設計により、5年の課程が可能となり、学生は自らの関心を深めながら、修士課程に相当する高度な学びへと進んでいきます。
教育課程の始めの3年間は、デザインの基礎的なスキルと多様な学問分野における専門知を習得するための期間です。1年次は、大学の様々な学問分野の重要な考え方や、その分野がどのように世界や社会課題を捉えているかということと共に、デザインの基礎を学びます。そして2年次、3年次には、学生が自らの関心に即して関連する分野の学びを深めるとともに、社会課題に関する様々なデザインプロジェクトに取り組みます。こうして学生たちは自分の興味のある分野を理解し始めるだけでなく、デザインスキルも向上させていきます。この3年間で、様々な学術分野に触れ、知識の幅を広げ、デザイン能力を深めていけるようにしたいと考えています。
その中でも学生にとって、特に1年目はとても興味深い学年になると思います。全て必修科目で選択科目はありません。そして、教育課程は2つの科目群によって構成されます。 1つは「Interdisciplinary Foundations (以下、IF)」です。IFは東京大学で学べる様々な学術分野、例えば法学・政治学、人文社会学、工学、農学、医学などを、文系理系を問わず、全て学びます。東京大学の全学部の協力を得て提供しますが、専門教育のための基礎知識を学び授業ではありません。それぞれの学術分野の重要な概念や、分野の全体像、社会とのつながりを理解することを目的に、独自の設計を行います。学生たちが、これら幅広い分野を学ぶことを通して、興味を持った学問分野や具体的トピックについて、自ら学びを深めて視野を広げるための科目群です。授業は午前中に行われます。
もう1つの科目群は午後に行われる「8 Track Design Series」です。これはデザインの基礎的な手法や方法論、倫理的思考を体系的・網羅的に学ぶ授業科目群で、非常に実践的なデザインスキルを学びます。デザインではその目的に応じて様々な方法が用いられます。ここでは8つのワークショップを通じて、UTokyo College of Designで学ぶ上で必要となる考え方やリテラシーの基礎を身につけます。学生は全てのワークショップに参加することを通じて、2年次以降、課題に実践的に取り組む上での基盤を身につけます。
1年時に学んだ基礎を踏まえて、2年次と3年次には学生たちがそれぞれの関心に沿って主体的に学びを構築していきます。Interdisciplinary Perspectives(以下、IP)は、IFで現代学問分野の全体像を理解した学生たちが、次に具体的かつ多様な学術の視点に触れる場です。5つの領域「Environment & Sustainability」「Technology Frontiers & AI」「Governance & Markets」「Healthcare & Well-being」「Culture & Society」に、合わせて約100の授業科目があり、学生はその中から自分が想い描く社会デザインの基軸となるトピックを選び、自らの学びを深めていきます。
また、同時に実践的な学びの場も増えていきます。Change Maker Design Projects(以下、CMP)は、社会が直面する複雑かつ多層的な課題への理解を深め、課題解決や新たな価値創造に向けたデザインのあり方や可能性を探究するプロジェクトベースの授業科目群です。8 Track Design Series で培ったスキルや方法、IFやIPで得た学術知を活用しながら、学生が正解のない問題に挑戦し、試行錯誤を通して新たな可能性を見出す学びを展開します。
4年目に長期インターンシップ 企業やNPOなど実社会で学ぶ
4年次になると全ての学生は、国内外の企業や国際機関などで最低でも約半年間、必要であれば1年間の長期インターンシップに参加します。現時点ですでに多くの日本企業や国際機関から学生の受け入れに賛同をいただいていますが、将来的には海外も含めて、さらに幅広く多様な企業・団体に拡大していきたいと思っています。学生たちには大学の外の世界、実社会がどのように機能しているのかを体験してもらいたいと考えています。
そして、4年次の後半はチームによるデザインプロジェクトです。チーム編成は自分たちで行わなければなりません。学生たちが最初に設計するのはチームです。それも単にチームを作るのではなく、異なるスキルを持つメンバーなどが集まる多様性のある素晴らしいチームを作らなくてはいけません。そして、次にテーマ、つまりプロジェクトの課題となるトピックを選びます。その後は各チームが主体的にデザインプロジェクトに取り組みます。
5年次には、個人によるデザインプロジェクトに取り組みます。学生はテーマを自ら設定し、1年間かけてプロジェクトを実施します。学生たちは様々な人から意見や助言を受け、自らの進むべき道を決めなくてはなりません。当然、迷うこともあると思います。だからこそ自立できるスキルを磨いておく必要があります。
私たちは学生たちに対して、優れたデザイナーであるだけではなく、幅広い学術的な思考力も求めています。全体としては学ぶべきことが非常に多い厳しいプログラムになると思います。そして、将来的には、博士課程レベルの研究に重点を置いた組織の設立も視野に入れています。その上で、最終的な目標として UTokyo College of Designを、東京大学の伝統的な学部である工学部、医学部、法学部などと並び立つような真に強力な新しい学部として、大学の中核的な役割を担うまでの存在にしていきたいと考えています。
【三四郎池】5年間を過ごすことになる本郷キャンパスには、都会の真ん中にあると思えない自然豊かな池がある。夏目漱石の小説『三四郎』にも登場している。
創造的空間「スタジオ」 オープンな環境が生む相互作用
UTokyo College of Designの年間を通じた学びの中核となる場として「スタジオ」があります。この「スタジオ」は、非常に重要な学びの場になります。「スタジオ」は学生がただ作業するだけの場所ではありません。こうした環境を設けた理由は、教員と学生との間でコミュニケーションと学びが生まれるようにするためです。つまり、「スタジオ」とはオープンな学習環境のような空間です。従来は学生が教員の研究室を訪ねて指導を受けることが一般的でしたが、UTokyo College of Designは違います。教員が「スタジオ」に来て、学生とコミュニケーションをしながら学修サポートなどを行うのです。また、他学年の学生や外部の専門家との交流や議論を行うなど、様々な考え方や活動が混ざり合う場にもなります。全てが「スタジオ」という空間で共有されます。ここは重要な議論の場であり、創造的な空間であり、アイディアを生み出す空間であり、お互いの意見や考えを共有する空間なのです。
入学者選抜はA・B2つのルート 情熱ある学生の入学を期待
入学者選抜は、2つのルートを計画しています。それがRoute AとRoute Bです。Route AとRoute Bの併願はできません。どちらか一方を選択することになります。

Route Aは大学入学共通テストで指定された科目を受験することが必須です。提出書類・資料は高校の調査書やエッセイ・ビデオ課題、英語能力検定試験の成績などですが、受験生本人が作成する書類・資料は英語になります。第一段階選抜を通過した者に対して、個人面接を含む対面形式の選考を行います。面接は英語で行いますが、一部で日本語を使用することもあります。
Route Bは東京大学が指定する統一試験や資格、例えば国際バカロレアや国際Aレベル、SAT、ACTなどのうち、少なくとも1つの成績の提出が必須です。このほかの提出書類・資料は高校の成績証明書やエッセイ・ビデオ課題、英語能力検定試験の成績などです。第一段階選抜を通過した者に対して、オンラインによる個人面接を英語で行います。
Route AとRoute Bの違いは、大まかに言えば、日本の高校教育を受けた生徒とそうではない生徒とを分けた設計になります。日本の高校生でも国際バカロレアや国際Aレベル資格を取得している場合はRoute Bで出願することができます。多様な背景の学生を受け入れて豊かな学びのコミュニティを構築するために、Route AとRoute Bのいずれにおいても、書類・資料・面接を通じた総合的な評価により選考を行います。入学者選抜に関する最新の情報はウェブサイトで確認してください。
入学は9月になりますので、ヨーロッパや北米の高校を卒業した学生は接続が容易です。また、これは日本の学生にとってもメリットがあります。日本の学生にとって、英語によるクリエイティブなプログラムに飛び込むのは、かなり大変なことだと思います。そこで、9月の入学までの期間 (Gap Term)に、学生の自信を高め、コミュニケーション能力を向上させるためのサポートを行います。希望者を対象としますが、ただ英語を教えるのではなく、コミュニケーション能力そのものを育むための機会をオンラインで提供します。これによって、コミュニケーション能力と自信を高め、大学での学びに不安を感じることなく移行ができるようサポートしていきます。

私たちは「See the World Through Design. Then Change It」をモットーとして掲げています。私たちの目的は、意義のある公正な変化を生み出す力を身に着け、社会課題に取り組み、世界にインパクトを与えるリーダーの育成です。UTokyo College of Designは単なる特定の学問・専門分野の深い知識だけでなく、それらの知識を活用して世界を変えるための多様な学びの機会を提供するプログラムです。世界を前向きに変えていくことに情熱を持った学生、あるいは情熱を燃やし始めている学生に是非入学して欲しいと強く願っています。

東京大学大学院情報学環
ペニントン・マイルス教授(カレッジオブデザイン学部長予定者)

