2024年、東北大学は政府の新しい施策「国際卓越研究大学」の第1号に認定された。日本の研究大学の未来像ともいうべき姿を目指し、多くの改革が動き始めている。その改革の先頭に立つ冨永悌二総長と、教育改革を担う滝澤博胤理事・副学長の2人に話を聞いた。第一弾となる今回は、冨永総長の言葉を中心に、研究改革の方向性をお届けする。

→第二弾:2026年10月から出願開始となる「ゲートウェイカレッジ」 東北大学 滝澤理事・副学長に聞く
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東北大学 青葉山キャンパス

研究第一・門戸開放・実学尊重 建学の理念に基づく体制強化

 国際卓越研究大学とは、低下しつつある日本の研究力を向上させるため、政府が特定の研究大学に支援金を与え、研究力を強化する新しい施策です。東北大学はその最初の大学として選ばれました。東北大学は創設以来、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念のもとで数々の成果をあげてきました。その実績を基盤とした計画と変革の意思が評価されて、国際卓越研究大学の認定第一号となりました。

 私たちが示した体制強化計画は、日本の研究大学のあるべき姿を示した、いわば研究大学の未来像と言っても良いでしょう。この体制強化計画の中でImpact「未来を変革する社会価値の創造」、Talent「多彩な才能を開花させ未来を拓く」、Change「変革と挑戦を加速するガバナンス」の3つを計画の柱として定め、これらを3つのコミットメント(公約)としました。

東北大学 第23代総長 冨永 悌二氏

3つのコミットメントで未来の大学像をつくりあげる

 3つのコミットメントのうち、Impactでは、学術的にインパクトのある研究成果を生むことはもちろんですが、それを社会的に最もインパクトがある価値創造にまで高めることをミッションとしています。

 具体的には大学が生み出す知を、産学共創などの形で社会実装することなどを計画しています。また、Talentにおいては、世界の研究者を惹きつけるような研究環境をつくることで、国内外から世界水準の優秀な研究者が集う大学にします。さらにそこで学ぶ学生を世界で活躍できる人材として輩出するため、新しい大学教育を展開するという目標を掲げています。そして、Changeでは、全方位国際化を進めるとともに、大学を優れた知識経営体として進化させるための組織体制の構築を目指しています。ここでは特に独自の基金創設など財務面での改革が大きな意味を持つと考えています。

 この3つのコミットメントを達成するために具体的な目標と戦略を定め、まさに現在、様々な施策を進めているところです。この体制強化計画を一言で言えば、大学というシステムそのものの改革だと言うことができるでしょう。従来の国立大学のシステムを変革することで、言わば未来の研究大学のあるべき姿を作り出そうとしているのです。

 ではそのシステムとは何かと言えば、研究システム、教育システム、ガバナンスシステムの3つです。中でも研究力の向上は最も重要です。例えば、研究成果の社会実装によって、新しい技術が開発されると、その国の経済にも非常に大きなインパクトがあります。それが顕著に見られるのは米国です。デジタル革命などのイノベーションを国家の経済推進のエンジンにしています。これらは国家間競争とも言える状況にもなっていますが、日本は残念ながらこの面では後れを取っていると言わざるを得ません。そこで国立大学、とりわけ研究大学にはイノベーションのエンジンとしての役割が強く求められています。そのためには、世界の大国と伍していくための研究力が必須です。

若手研究者の支援に注力、活躍できる環境づくりを進める

 研究に関して、私たちが最も重視しているのは「若手研究者の活躍」です。そのための仕組み作りも進めています。従来の研究大学は、研究室単位で研究を進め、研究主宰者である教授が准教授や若手研究者を指導しつつ研究する「講座制」が一般的でした。いわば縦型の組織体制です。そこには当然、長所もありますが、東北大学では優秀な若手研究者を独立した研究者として扱う「フラットな研究体制」に移行します。ここで言う独立した研究者とは、自分で研究課題を考え、研究資金を得て、研究成果を自身で発表・報告できる研究者です。ただ、若手研究者がすぐに研究予算を獲得するのは難しいところもあります。そのため、フラットな研究組織とは言え、ユニットを組んだり、メンターとしてサポートしたり、お互いに協力して研究を推進できる体制にしています。

 東北大学では、2013年に「学際科学フロンティア研究所」を作り、そこに助教クラスの約50名の若手研究者を集め、独立した研究環境を提供しました。そこでのポイントは「学際性」です。分野を限定せず、様々な分野の研究者に協力して研究に取り組んでもらったところ、数々の受賞をするなど非常に大きな成果がありました。優秀な若手研究者に独立した研究環境を提供すると素晴らしい研究成果を残すことを、私たちは身を持って経験しています。今回の計画で若手研究者の活躍にフォーカスしているのは、こうした経験と実績がベースとしてあるからです。

 その点から、新設した「医学イノベーション研究所(SIRIUS)」は象徴的な存在と言えるでしょう。大学病院の医師は多忙です。病院での診療や地域医療を支えることで、研究時間がなかなか取れません。そこで優秀な若手研究者を公募で選び、5年間もしくは6年間、研究に専念してもらいます。ここから新しい医療が生まれたり、研究成果からスタートアップが創出されたりすることなどを期待しています。このほかにも、グローバルに活躍する若手研究者と産業界の多様なコラボレーションを実現する産学共創プラットフォーム「ZERO INSTITUTE」を設立し、活動を始めています。こうした若手研究者の活躍を支援する施策を今後も積極的に進めていきます。

研究の「戦略性」と「多様性」  研究時間確保のための施策も

 また、研究を推進する上では「戦略性」と「多様性」が重要です。若手の自由な発想に基づく研究を支えることは、研究のすそ野を広げる意味で多様性につながります。一方で、世界トップレベルの研究をさらに伸ばしていくことも必要です。これが戦略性です。東北大学には、「災害科学」、「材料科学」、「スピントロニクス」、「未来型医療」、「環境・地球科学」とすでに世界的レベルの研究分野があり、国が指定する国際研究拠点にもなっています。こうしたトップレベル研究強化に加えて、戦略的に重要な先端研究領域で分野融合研究強化を進めます。これらと若手研究者の多様な基盤的研究強化と合わせた3階層のシステムで研究インパクトを創出していきます。

 もう一つ、研究にとって大切なのは「研究時間の確保」です。少し前の統計ですが、日本の研究者は1日のうち約30%の時間しか研究に当てることができていないというデータがあります。教育や社会貢献、組織運営などに時間が割かれているのです。これは非常に大きな問題だと思いますし、日本の全ての国立大学に共通した課題です。そこで、技術職員など技術的な支援をする人材や、URA(リサーチ・アドミニストレーター:研究支援の専門職)など研究を支えてくれる人材を増やしています。さらに入試業務の負担を軽減するため、全学の入学者選抜を統括する専門部門「アドミッション機構」を設立して、研究者の業務負担を減らすべく取り組みを進めているところです。

独自基金の創設と運用を視野に、優秀な研究者を世界から採用中

 今回、国際卓越研究大学に選ばれたことで、これまでとは異なる形で、収入の一部を大学独自の運営基金とすることができるようになります。米国の私立の研究大学は、独自の基金を持っており、これを運用した運用益で基金をさらに大きくしています。こうして得た資金を研究や奨学金などに当てているのです。

 例えば、海外から優秀な研究者を招こうとすると、その処遇には大変な費用がかかります。こうした時に独自の基金から費用が拠出できることが非常に重要です。そのため、基金の造成はこれからさらに進めていくことになりますが、そこでは産業界との連携も必要になります。大学が知的価値を創造し、それを社会実装して、社会からその対価を受け取り、その資金でさらに研究を発展させるという循環を生み出すことで、独自の基金を大きくしていくことができます。それによって、海外からの研究者招聘や学生の奨学金など、自分たちの目的に合わせた支出が可能となります。

 また、研究者のリクルートに関しては、現在、非常に円滑に進んでいます。各部局が描く成長戦略に基づいて、国内外から優秀な研究者の採用を進めています。特に海外からの研究者とは契約交渉を含めて様々な事務的業務が発生します。そのため、全学の人事戦略も含めて一括して対応する「HCM(Human Capital Management)室」を設置して専門職スタッフを配置しました。この結果、各部局の人事の透明性も高まり、採用活動も順調です。計画では5年間で約500人の研究者を採用することとしていますが、すでに200件を超える人事計画が承認され、現段階で144人の選考が完了となっています。

「仙台で研究する人は幸福」かのアインシュタインが絶賛

 東北大学の歴史を振り返ると、帝国大学で初めて女子学生を受け入れたり、早い時期から留学生を受け入れたり、多様性を大切にしてきた大学です。まさに門戸開放、オープンマインドな校風です。
都市と一体になったイノベーションキャンパスを創造

 今から約100年前、ノーベル物理学賞の受賞直後にアルベルト・アインシュタインが来日した際、仙台でも講演を行い、当時の東北大学にも来ています。アインシュタインは、東北大学の当時の総長を始めとする研究者らと懇談、議論し、研究所を訪問するなどしています。そこで東北大学の研究の先進性に加えて、恵まれた研究環境を目の当たりにし、仙台の街の美しさも相まって「仙台で研究する人は幸福だ」と言い残しています。

 東北大学は、高校生の皆さんの夢が叶えられるよう、最大限の力を尽くしてきめ細かく教育します。そして、仙台には素晴らしい研究環境があります。それに加えて、若手研究者が自由に研究できる環境もあります。仙台で、この東北大学のキャンパスで、皆さんの入学を楽しみに待っています。

東北大学

冨永悌二 総長

 

東北大学

イノベーションの源泉となる優れた研究成果を創出し、次世代を担う有為な人材を育成

東北大学は、開学以来の「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神を基に、豊かな教養と人間性を持ち、人間・社会や自然の事象に対して「科学する心」を持って知的探究を行うような行動力のある人材、国際的視野に立ち多様な分野で専門性を発揮して指導的[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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