日本の研究大学の未来像ともいうべき姿を目指し、多くの改革が動き始めている東北大学。第二弾となる今回は、国際卓越研究大学に認定された同大学が創設する、これまでの学部教育とは異なるまったく新しい教育プログラム「ゲートウェイカレッジ」について教育改革を担う滝澤理事・副学長に話を聞いた。
全学の1・2年生が主に学ぶ 東北大学 川内キャンパス
グローバル・レディネス※を育む「ゲートウェイカレッジ」
※グローバル・レディネス多様な価値観の中でグローバルに活躍する準備ができた状態
国際卓越研究大学で示した体制強化計画の中で、Impact「未来を変革する社会価値の創造」、Talent「多彩な才能を開花させ未来を拓く」、Change「変革と挑戦を加速するガバナンス」の3つのコミットメント(公約)を示しています。
大学の機能として最も大切なことは人を育てることです。未来の担い手を輩出するのは大学の使命と言っても良いでしょう。3つのコミットメントの一つ「Talent」では、様々な人材育成の目標と戦略が計画されています。国際卓越研究大学構想の中では、教育改革も大きな柱の一つですが、そこでもやはり多様性に主眼が置かれています。その答えの一つが「ゲートウェイカレッジ」の目指す、世界中から優秀な学生が集まる国際共修環境です。
東北大学 理事・副学長 滝澤博胤氏
2027年4月新設「ゲートウェイカレッジ」
ゲートウェイカレッジは学部ではなく教育プログラムであり、入学時点で学部を決めずに学び始め、3年次以降に専攻分野を決める「レイトスペシャリゼーション」が最大の特徴だ。学生はまず2年間、幅広い教養教育と分野横断的な基礎教育を学びながら、自分の興味や適性を見極める。
学びの環境も特徴的で、日本人と留学生の比率は1:1。入学から卒業までの授業は英語で行われ、1年次は国際混住寮で生活することで、多様な文化と世界の知に触れながら学ぶことができる。また、早い段階から研究活動やプロジェクト型授業に挑戦し、国際卓越研究大学としての強みを生かした研究環境のもと、大学院につながる知識や技能を身につけていく。
3年次には専門となる「系」を選択し、文系はこの段階で学部が決定する。理系は将来の専門を見据えたいくつかの「系」に分かれ、4年次に最終的な所属学部・学科が決まり、卒業研究へと進む。
現在、世界から優秀な研究者の採用を進めていますが、必然的にそれと対になるのが、世界から優秀な学生が集まることだと考えています。東北大学は創設以来、早期から留学生を多く受け入れてきました。それもあって、現在の大学院博士課程では学生の約30%が留学生です。ところが、学士課程(学部)ではわずか2%程度です。学生たちはその学士課程を経て大学院に進むのですが、大学院に入学してから急に「世界に目を向けなさい」と言われてもなかなか厳しいものがあると思います。もっと早い段階、つまり学部教育から、グローバルに活躍するための準備、グローバル・レディネスを育むことが大切です。そこで学部段階で国際共修環境を作るというのがゲートウェイカレッジの発想です。
将来的には、学部教育段階でも留学生の比率を20%とすることを目標としています。この20%はある意味でクリティカルマス(分岐点)になると思っています。学部生の20%が留学生になると、キャンパスのそこかしこで学生が留学生と交流する環境が生まれることでしょう。

専門分野の決定は3年次以降 高校生の進路決定は早すぎる?
ゲートウェイカレッジの教育の特色として、日本人学生と外国人留学生が英語で共に学ぶ国際共修環境に加えて、「レイトスペシャリゼーション」があります。一般的な学部のように、専門分野を決めてから入学するのではなく、入学後に専門を選択する仕組みです。具体的には学部の3年次以降に専攻分野を決定します。
日本の初等・中等教育は教育の均質性が高く、さらに高校入試と大学入試を経ることで、大学には同質性の高い層が集まりやすい傾向があります。しかし、ゲートウェイカレッジには、世界から様々な中等教育の課程を修めた学生が集まることになります。それを考えると、従来型の入学者選抜や教育体系では、国際共修環境の創出という意味で好ましいとは言えません。そこでゲートウェイカレッジの入学直後は、共通科目を共修した後、分野選択を見据えた科目履修をするカリキュラムになっています。
もともとの私たちの問題意識として、日本の高校の場合、多くが高校1年生の時に文系・理系を決めて、さらに地歴・公民や理科の科目選択も行うことに対する疑問があります。高校3年生になって、いざ志望校を決めようとした時、自分の選択科目が入試科目と合わないことが起きることもあり得ます。それでは、高校1年生の段階で、将来の学びの方向性を自分で狭めてしまっていることにもなりかねません。
従来の入学段階で学部学科が決まっている仕組みは、特定の分野に長けた高度人材を育てる意味では良い仕組みでしたが、現代社会で求められているのは「総合知」だと思います。あるいは「トランスファラブルスキル(応用可能なスキル)」と言うこともできるでしょう。私は大学院で研究を行うことは、トランスファラブルスキルを体得するプロセスそのものだと考えています。自分の目で世の中を見て、課題を発見し、さらに発見したその課題を解決する方法論を自分で考え、それを実践し、そこで成し遂げた成果を世に問うという、大学院での学びと研究こそがトランスファラブルスキルの体得につながります。そうした視点から、ゲートウェイカレッジでは大学院進学をデフォルトと想定していますし、最終的には優秀な博士人材を世に送り出すことを目標にしています。

受験生の意欲と熱意を見るため、総合型選抜(AO入試)に移行
ゲートウェイカレッジの入学者選抜は、「4月入学」と「10月入学」の2つの入試を予定しています。それぞれを個別に募集し、両方に出願することはできません。日本の高校生の場合は4月入学となる場合がほとんどだと思いますので、入試の時期は11月になります。11月にはAO入試(東北大学の総合型選抜)II期が行われますが、ゲートウェイカレッジは同日実施を予定していますので併願はできません。
ただし、現在でも東北大学のAO入試を受験している受験生は、一般選抜まで受験することを視野に入れて勉強しています。ゲートウェイカレッジ受験者も同様に一般選抜を受験する道は開かれています。
ただ、ゲートウェイカレッジとは言え、特別な入試をするわけではありません。高校までの学習歴を踏まえた、文系型・理系型の大括りでの選抜を実施します。AO入試の一つだと考えてもらえば良いでしょう。
そして、入学者選抜で最も大切にしているのは「受験生の意欲」です。東北大学はAO入試等による入学者が約30%と、他の国立大学よりも多く、いずれは全ての入学者を総合型選抜で受け入れることを考えています。それというのも入学後の成績を比べてみると、一般選抜よりもAO入試での入学者の方が優位に示されています。その差は意欲と熱意から来るものだと思います。AO入試での入学者の多くは、大学入学をゴールではなく、出発点と考えています。ここがとても大事なポイントです。
しかし、AO入試は実施の面では非常に負荷のかかる入試です。簡単に拡大できるものでもありません。そこで入学者選抜業務を専門とするアドミッション機構を設置して、スタッフも充実させました。今後は、外国籍の教員も増やして、海外のトップ高校と直接連携・対話を進めていきます。
おそらくあと20年もすれば、現在のような1点きざみの入試などもはや成立していないでしょう。もちろん研究大学では、知識や技能など一定水準の学力担保は必要ですが、そこから先は、意欲がある人、熱意のある人にぜひ入学してもらいたい。東北大学は総合型選抜に向けて大きく舵を切りますが、こうした取り組みを多くの大学に広げていくことも、国際卓越研究大学としての使命の一つだと思っています。

