神戸大学大学院の林 創(はやし はじむ)教授らは、大人だけでなく、小学生においても、あえて何も言わない「不作為の嘘」は、偽の情報を伝える「作為の嘘」よりも道徳的に甘く判断してしまう傾向が強いことを明らかにした。

 事実と違うことを相手に伝えること(積極的な嘘)で欺くことは「作為による嘘」、事実を知っているのに「あえて何も言わない」こと(消極的な嘘)で欺くことは「不作為の嘘」と呼ばれる。人には作為による悪いことを、不作為による悪いことよりもネガティブに判断する(不作為の方が気にならない)傾向(不作為バイアス)がある。今回、「発言の有無」に焦点を絞り、作為の嘘と不作為の嘘の道徳的判断の際、不作為バイアスが生じるのか、年齢や状況によってバイアス(先入観、認識の歪み)の程度に差があるのかを検討した。

 参加者は小学3年生(8~9歳)78人、6年生(11~12歳)76人、大人80人。「利己的状況」と「他者をかばう状況」の類似した2種の話を用意し、それぞれの状況で「意図的悪事」と「偶発的悪事」が描かれている計4場面を提示し、質問に回答してもらった。

 その結果、4場面全てで作為による嘘を不作為による嘘よりも悪いと判断しており、大人だけでなく子どもでも、嘘の道徳的判断において不作為バイアスが見られた。また、大人における不作為バイアスの大きさは、利己的な嘘の方が他者をかばう嘘よりも大きく、また、意図的悪事を隠す嘘の方が偶発的悪事を隠す嘘よりも大きかったが、小学生では、状況による違いは見られなかった。

 今回の知見は、子どもの道徳性を高めていく指導を行う上で見逃しやすい点であり、有用な情報と考えられるとしている。

論文情報:【Journal of Experimental Child Psychology】Omission bias in children’s and adults’ moral judgments of lies

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