大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授、凸版印刷株式会社(先端細胞制御科学(TOPPAN)共同研究講座)のFiona Louis特任研究員、京都府立医科大学大学院医学研究科形成外科の素輪善弘講師の研究グループは、血管網を持つミニサイズの乳房の再構築に成功した。このミニ乳房は、小動物への移植実験で従来の吸引脂肪組織に比較して約2倍高い生着率が確認された。
これまで乳がん摘出後の乳房再建術では、シリコン製のインプラントを用いた再建が主流とされてきた。しかし、2019年7月、日本で唯一認可されていたインプラントは悪性リンパ腫の発生に関連しているとして販売停止となり、代替となる旧型のインプラントも破損や変形、被覆拘縮等の合併症を引き起こすリスクが不安視されている。一方、患者自身の脂肪を採取して注入する自家組織再建術も行われているが、その生着率は患者ごとにばらつきがあり、さらに移植のたびに患者に負担が生じるという課題があった。
今回、松崎教授らのグループは、Ⅰ型コラーゲンのマイクロ繊維を用いた独自の沈殿培養技術により、機能的な血管構造を有する脂肪組織ボール(ミニ乳房)を構築することに成功した。およそ100個のミニ乳房を注射器で移植すると、体内で自発的に集合体を形成する。ミニ乳房が持つ血管網により、脂肪細胞へ栄養と酸素を供給することが可能となり、現在使用されている脂肪細胞注入法やインプラントと比べ高い生着率を示す。患者由来の脂肪組織を体外で複製するため、患者の負担軽減、高い安全性など利点もある。
今後は、従来の乳房再建術に代わる新しい乳房再生医療として、実用化を目指した研究が進められる予定だ。
参考:【京都府立医科大学】世界初、高い生着率の血管付きミニ乳房を再構築――インプラント等に代わる新たな乳房再生医療へ期待――(PDF)