長崎大学の加藤理子氏(修士課程)と八木光晴准教授は、長崎県南西部沿岸に生息するウミウシ類(軟体動物腹足綱の一群)を対象に、過去50年以上にわたる生物相の変化を比較分析した結果、気候変動による海洋環境の変化がウミウシ群集に明確な形で表れていることを国内で初めて実証した。
気候変動による海洋環境の変化は日本各地で報告されている。海水温の上昇は、魚類や海藻類の分布を変化させ、沿岸生態系の構造にも影響を及ぼすことが指摘されている。しかし、長期スケールで海洋無脊椎動物の群集動態を記録し、科学的に比較した研究は国内外でも極めて限られていた。
「海の状態を示す指標生物」としてウミウシ類が近年注目されているが、観察や同定には技術と経験が必要で、体系的なデータが蓄積されにくいという課題があった。
そこで研究では、1960〜1980年代と2001〜2003年の過去の調査記録と、2023〜2024年に新たに行われた27回のスクーバ潜水調査データを統合することで、同海域の生物多様性の変遷を検証した。その結果、かつて一般的に観察されていた冷温帯〜亜寒帯性のウミウシ類がほぼ姿を消し、代わって熱帯〜亜熱帯性のウミウシ類の割合が顕著に増加していることが明らかになった。
特に、2023〜2024年の調査では、確認された47種のうち55.3%が熱帯〜亜熱帯性種で、20年前(42.9%)に比べ大幅に増加した。一方、50年前と20年前に記録されていた亜寒帯・寒帯性種は現在では消失し、海の生物相が「南方化」している実態が生態学的データから裏付けられた。これらの変化は海水温異常値の上昇傾向と一致しており、気候変動が沿岸生態系に及ぼす影響を可視化する重要な事例として位置づけられるという。
