山陽新幹線岡山駅、その西口から車で約10分の小高い丘の中腹に、加計学園の本部を含む岡山理科大学のメインキャンパスがある。2018年6月19日には、この場所に多くの報道陣が詰めかけ緊迫した雰囲気の中、愛媛県今治市に、実に半世紀ぶりに開設された獣医学部に関する学園側の記者会見が開かれた。あれから8年、多くの学生で賑わうこのキャンパスに、2024年、当時50歳で理事長になられた加計役(かけ まもる)さんを訪ね、獣医学部のこと、岡山理科大学や加計学園の将来構想などについてお聞きした。
岡山理科大学岡山キャンパス空撮
今治で育てる、地域と世界をつなぐワンヘルス人材
半世紀ぶりの獣医学部新設で起きていること
本学獣医学部の開設以前、西日本には鳥取、山口、宮崎、鹿児島の4国立大学と、公立の大阪府立大学(現・大阪公立大学)にしか獣医系の学部・学科(※1)がありませんでした。しかもいずれも入学定員は少なく、私立との併願先を考える西日本の受験生は、関東圏まで視野に入れる必要がありました。四国にその新たな受け皿を作れたことは、こうした受験生ニーズに対して一定程度、応えることができたのではないかと考えています。
(※1)共同獣医学部、共同獣医学科、獣医学課程、共同獣医学課程を含む
2026年度 獣医学部獣医学科 志願者の地域割合
おかげさまで志願者数は、ここ4年連続で全国最多となり、直近の入試では5,000名を超えました。また獣医師国家試験の直近の合格率も、2025年で81.9%、2026年で78.9%、合格者数も2026年には獣医系の学部・学科のある17大学中4位と、この3年間で累計数字も258名と新設ながら健闘しています。そしてこれにもましてうれしいのは、今治市や四国の行政、農畜産団体、それに獣医師会、学校関係者や市民の皆様方から「大学が来てくれてよかった」と直接お声をいただけていることです。開設までにはさまざまな困難・苦労がありましたが、全国から学生が集い、町に活気が溢れているのを見ると、改めて開設の意義を実感できます。
学校法人加計学園 理事長 加計役さん
残る課題、地域を支える獣医師、公務員獣医師をいかに育てるか
もちろん課題はまだまだあります。一つは開設当初の目標の一つでもあった、愛媛県内や四国に残って畜産の現場に関わる獣医師の卒業生に占める割合が予想以上に少ない点です。
そもそも獣医師養成にあっては、地域の畜産業を支える牛や馬などの産業動物を扱う獣医師や、家畜保健衛生所や食肉衛生検査所で、防疫を担う公務員獣医師の不足が全国的に深刻化する中、その解消が大きな課題とされてきました。一方で、獣医志望者には犬や猫など小動物の臨床に興味のある学生が多いこと、また都市部のペット医療に関わる獣医師や民間の製薬会社などに勤務する獣医師と、公務員獣医師との間の所得格差といった現実もあります。産業用の大型動物に対する心理的ハードルを下げるとともに、地域で働く魅力や国や地方行政の危機管理を担う意義などをいかに理解してもらえるか。学生に職業選択の自由があり、大学として進路を強制できない以上、入学後はもちろん、入学前からの地道な啓発活動が、これまで以上に必要であることを改めて感じています。
岡山理科大学今治キャンパス校舎
とはいえ手をこまねいているだけでは状況は改善しません。まずはできることから始めようと、大型動物に慣れ親しんでもらう機会を増やそうと、近年は近隣の牧場に大学の牛、いわば「マイカウ」を置かせていただき、実習などで活用しています。また、今治キャンパスの馬術部には馬場や厩舎がなく、学生は海を渡って福山の乗馬クラブまで通っている状態ですから、これを早急に改善し、馬術部に所属していない学生も日常的に馬と接することのできる環境作りに努めていきたいと考えています。
卒業後、地域に残る学生を増やすことについては、開設時から四国出身者を対象に、年間100万円、授業料の支払いを6年間猶予する形で就学を支援する奨学制度(毎年度定員20名)や岡山・愛媛地域枠奨学生制度などを設けてきましたが、これらの周知を一層図るとともに、今後へ向けて新たな施策の拡充が必要だと思っています。
半世紀ぶりの新設だからこそできること
卒業生の地域貢献とならんで、本学が開設時から掲げてきた目標が、欧米の先進的な獣医学教育に追いつき、世界で通用する獣医師の養成です。
この半世紀、獣医学教育のグローバルスタンダードは、カリキュラムだけでなく、設備、配置教員数などにおいて大きく変貌しています。この点、国内で最後発の本学は、建物・設備の新しさだけでなく、これらの新しい基準をすべてクリアすべくスタートしました。具体的には140名の定員に対して70名を超える、定員あたりでは国内最大規模の専任教員の配置。大規模な「大動物臨床獣医学教育センター」や最先端の「BSL3(バイオセーフティーレベル3)実験室」の完備、またカリキュラム面では、1年次からの大型産業動物を扱った実践的な実習の導入や家畜保健衛生所や牧場での長期インターンシップの必修化(※2)などです。
BSL3(バイオセーフティーレベル3)実験室
加えて、今治という瀬戸内海に面した立地を活かし、これまでになかった水産業という新しい領域への展開も視野に入れています。近年、水産業では海水温の上昇による生態系の変化や、世界の人口の爆発的な増加に伴う漁業資源の枯渇などが危惧されていて、魚類資源の保全や養殖の拡充など、獣医師の関わる分野に関心が高まっているからです。
また、これはあくまでも構想段階ですが、現在、生命科学部で行っている、海水魚と淡水魚を同時に飼育できる特殊な水、「好適環境水」を使った陸上養殖と連携すれば、海と陸を往還し、獣医学と水産業、地域産業を結びつける新たな獣医学の創出も夢ではないと考えています。
海水魚と淡水魚を同時に飼育できる特殊な水、「好適環境水」
今治は落ち着いた環境で学生が集中して学び研究するには非常に恵まれた場所です。この地で、小動物や産業動物医療や人獣共通感染症の水際対策、さらには魚類の健康管理や防疫まで幅広く学び、人と動物、そしてそれを取り巻く環境の健全性を一体として守る「ワンヘルス(One Health)」の視点をもって、地域と世界の双方に貢献できる獣医師を育てる。それが、岡山理科大学獣医学部の変わることのない使命だと考えています。
(※2)四国4県すべての獣医師会や主要な農業共済組合と連携協定を結ぶほか、医療系大学等と感染症に関する研究で包括連携協定を結ぶ。

学校法人加計学園 理事長
加計役さん
1994年英数学館高等学校卒業、1999年東洋大学経営学部卒業、2006年米国フィンドリー大学経営学修士(MBA)。
2004年学校法人英数学館理事長(~2009年)、2008年学校法人吉備高原学園学園長(現在に至る)、2009年学校法人広島加計学園理事長(現在に至る)、2011年6月から加計学園副理事長を経て2024年から現職。
