九州大学(福岡県福岡市)大学院 人間環境学研究院の橋彌和秀准教授らの研究グループは、1歳半の赤ちゃんが「第三者」の立場から、知識や注意の状態の違いを踏まえたうえで「他者を気遣っている」ことを示したと報告。2017年1月18日に国際学術誌「Frontiers in Psychology」でオンライン公開された。
研究方法は、生後9ヶ月~1歳半の赤ちゃん24名を対象として、映像を見ている際の視線を計測する視線計測装置(Tobii TX300 ※1)を使用。画面に現れた2人のうち一方だけが対象の赤ちゃんに視線を向け、もう一方がその赤ちゃんに「気づいていない」場面を見せた。すると、1歳半の赤ちゃんは「気づいていない」人物にすばやく視線を向ける傾向があると判明。
本研究では、「画面に現れた2人が前もって注意を共有している場面」では、このような視線のパターンは見られないなど、他条件との比較及び統計的な分析を実施。その上で、これまで既に明らかになっていた「自分と相手の知識や注意の状態の違い」だけでなく、「他者同士の知識の違い」まで認識して行動していることを示すものと結論づけた。
この研究成果は、ヒトにおける能力の発達的起源を理解する上で新たな視点を与えるとともに、子育てや教育の現場において、大きな意義があると考えられている。今後は、1歳半で上記の傾向が出現する発達の要因を特定し、また、対面場面での多様な状況を設け、赤ちゃんが状況に応じてどう情報伝達をする(あるいは 「しない」)のかを、実証的に検討するという。
研究者グループは、「大人にとってはごく当たり前におこなわれている日常のコミュニケーションは、実際には様々な能力や認知バイアス(偏り)を前提として成立しています。赤ちゃんは、このような前提を、(ことばと同じように)日常のやりとりの中で獲得していきます。これからも、赤ちゃんが「意外と」やっていること、「意外と」やっていないことを解きほぐし、発達の視点から社会や文化の基礎を解明していきたい」と語った。
※1 赤外線及び画像解析技術を用いて非接触で視線を計測する装置。