東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の西沢望特任助教、宗片比呂夫教授らは2月9日、室温で純粋な円偏光を発するスピン発光ダイオード(スピンLED)を世界に先駆けて創製したと発表した。

 近年様々な種類の光が理学、工学、医学など様々な分野で利用されているなかで、特に注目を集めているのが円偏光だ。光の波の振動面(偏光面)がらせん状に右あるいは左方向に回転しながら進む光で、光学活性物質の選別、特に合成化学産業の分野でよく利用されている。

 室温円偏光の実現に際し、最大の課題は、円偏光のらせんの回転方向を司る電子の自転軸の向きを全て揃えるための原理開拓と、素子中の半導体と磁性体金属の接合で生じる非磁性物質の生成をなくす作製法の開拓と考えられてきた。今回、研究グループは宗片研究室で独自開発した“結晶性アルミナ中間層”によって、大電流を流していても接合面での化学変化を抑えこむことに成功した。これによって、大電流下の発光で円偏光が増幅される現象を発見することができた。

 この結果、室温で純粋な円偏光を発するスピンLEDを世界に先駆けて創製した。中間層に結晶性アルミナを用いたこのダイオードは、電流が小さい時は自然光に近い偏光のない「無偏光」な発光であったものが、電流を大きくして発光強度を上げていくと円偏光の純度がみるみる上昇して純粋な円偏光に達する。この性質から、ダイオード中で発生した強い発光自体に円偏光を増幅する効果があると推定される。

 現状で、素子中の結晶性アルミナ中間層は大電流通電状態で1週間程度の耐久性しかない。今後は、その品質をさらに向上させるとともに、円偏光を発する超小型レーザーの実現を目指すという。その過程で、今回判明した円偏光が増幅する原理が解き明かされる可能性があるとしている。加えて、これまで困難だった生命活動の詳細な観察や、円偏光を使った暗号通信への応用も期待されるとしている。

大学ジャーナルオンライン編集部

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