2021年8月、小笠原諸島の海底火山が噴火した影響で、噴出した軽石が深刻な問題となっている。漂流する軽石は、沖縄県を中心に流れ着き、海岸周辺に大量に押し寄せている。
福岡工業大学生命環境化学科の久保裕也准教授の研究室では、この軽石を自然に海中に沈め、環境に負荷をかけることなく海洋投棄する新しい処理法を考案した。軽石は内部にマグマが凝集する際に発生した気体の経路や体積収縮で生じた引け巣を持ち、微細な気体を含むために、見かけ比重が海水よりも軽く、海面に浮遊する。軽石が「浮く」ことが問題だと考えた久保研究室では、軽石内から気体を抜き、海水よりも重い本来の状態に戻すことで、海中に沈めることを可能にした。
この手法では、軽石を入れた容器を真空に近い状態まで減圧することで、軽石内から気体を抜いて浸水経路を作る。その後、容器内に海水を入れ、大気圧に戻すと、軽石に急速に海水が侵入し、重くなるので、海に沈下させることができる。
実験では、軽石を直径2ミリ前後に砕いた場合、減圧処理で70~80%を沈下させることができた。軽石内部への気体の入り方には個体差があるものの、径の大きさによって40~99%の軽石を沈められることを実証したとする。
現在検討されている軽石の陸上処理では、埋め立てても土壌塩害の恐れや、セメントや砂への利活用でも材料の腐食といった懸念が残る。回収・輸送にかかるコストも莫大だろう。一方、久保研究室の考案した、軽石を水深のある海底に沈める手法では、コストと労力を大幅に削減できる上、海中投棄による環境への影響もないという。
本発明については既に特許が出願され、社会課題に対して実現可能性の高いソリューションとして提案されている。