9月30日、「令和8年度国公立大学入学者選抜の概要」が公表されました。これによると国公立大学の総合型選抜、学校推薦型選抜が拡大しています。これらの入学者選抜を実施する大学、学部数の増加に加えて、募集人員が増加しています。募集人員が増えると当然ながら合格者も増えます。年内に受験を終える生徒が増えると一般選抜の競争率や難易度にも影響します。これらの入学者選抜では学力の三要素のうち、いわゆる「主体性等」の評価に重きが置かれることも多いのですが、次の学習指導要領ではこの「主体性等」の内容や評価が変わりそうです。大学入試に大きな影響はないと思いますが、どのように変わるのか現段階での議論について見ておきます。

 

国立大、公立大の年内入試、募集人員比率は共にプラス1%

 「令和8年度国公立大学入学者選抜の概要」によると、国公立大学の総合型選抜、学校推薦型選抜を実施する大学数、学部数はともに増えています。それによって募集人員も増えており、両選抜方式を合計すると募集人員に占める割合は前年から、国立大学21%→22%、公立大学33%→34%と共に1%のプラスとなっています<グラフ1>。人数にすると国立大学は800人弱の増加、公立大学は500人弱の増加です。

グラフ1

 これらの入試は一般的に年内入試と言われていますが、国公立大学の場合は1月の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を課したり、2月に個別試験を行ったりして、年内に合否が決まらないケースもありますので、これらの選抜方式の合格者全員が年内に受験を終えるわけではありません。時々、国立大学の関係者とお話をしていると、年内入試という名称について議論になることもありますので、ここでは総合型選抜・学校推薦型選抜を合わせて総・推入試としておきます。なお、この総・推入試で、共通テストを免除する学部数は増えており、共通テストを課す学部数よりも多くなっています<グラフ2>

グラフ2

 共通テストが免除されている場合はほとんどが年内に合否が決まり、合格した受験生は受験が終了します。受験が終了するという事は、一般選抜を受験しませんので、取り分け併願が多い私立大学の一般選抜の志願者数の減少に影響するのですが、公立大学のように総・推入試比率が平均で30%を超えている状況から考えると、地域によってはかなり影響が大きいことが予想できます。特に前期日程などよりも多くの募集人員を総・推入試に設定している国公立大学もありますので、こうした大学が設置されている地域では年内の入試を志望する受験生も多いものと思います。

【文部科学省】令和8年度入学者選抜について
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/senbatsu/1412102_00011.htm

単科系大学は総・推入試比率が高め

 今回公表された入試概要の資料から、総・推入試の募集人員比率を計算して、その比率が高い大学をまとめました<表>。なお、計算には前期日程、後期日程、中期日程、公立大学の独自日程を使用しており、社会人選抜などの特別入試は除いています。表を見ると国立大学でも総・推入試の比率が50%を超えている大学があります。また、公立大学は全体平均が30%を超えていることからも分かるように、約半数の大学で総・推入試比率が40%以上となっています。公立大学の場合は、設立の際に入学者の半数は県民あるいは市民とすること等の取り決めがあることも多いため、当然かもしれませんが、国立大学でも単科系の大学(専門性が高いことが理由だと考えられます)で総・推入試比率が高い傾向にあります。なお、表中の豊橋技術科学大と長岡技術科学大は、3年次に高専(高等専門学校)などから学校推薦型選抜で多くの受験生を受け入れていますが、それらは含まず1年次の入試のみの数値ですが、相対的に高い比率になっています。

 これら総・推入試の多くは面接や小論文などが課され、学習意欲や取組等への姿勢などの評価が重視されます。学力の三要素で言えば「主体性等」ですが、入試のルールブックとも言える文部科学省の通知「大学入学者選抜実施要項」では「主体性等」について「主体性を持ち、多様な人々と協働しつつ学習する態度」と記されています。このルールブックの記載を、実際の面接の場面などで大学側がどれぐらい意識しているかは分かりませんが、総・推入試における「主体性等」の評価は、現実には受験生の意欲(やる気)を評価していることが多い印象です。

 学力の三要素の評価の仕方について、大学によっては選抜方法と評価する学力の三要素をマトリクス表にして、分かりやすく整理しているところもあります。この学力の三要素と選抜方法のマトリクス表は、佐賀大学の発明と言われていますが、その佐賀大学に来年開設予定のコスメティックサイエンス学環のマトリクス表では、「主体性等」を「コスメティックサイエンスの専門分野に対する強い興味・関心及び主体的に学び続けようとする意欲と態度」と「自ら学びを深めようとする行動や姿勢を通して,本学環の教育・研究活動を活性化できる可能性」の2つに整理しており、総合型選抜では「志望理由書」と「活動実績報告書」と「調査書」を用いてこれらを評価すると記載しています。多くの大学も同様ではないかと思います。

【佐賀大学】2026年度(令和8年度)入学者選抜要項
https://www.sao.saga-u.ac.jp/gakubugakububosyuuyoukou.html

すでに検討が始まっている次の学習指導要領の「主体性等」

 この「主体性等」ですが、学習指導要領を説明する概念図では、いわゆる3つの柱のうちの「学びに向かう力・人間性等」に該当します。そして、評価に当たっては、感性や思いやりなど評価や評定に馴染まないものを除いた、「主体的に学習に取り組む態度」を評価することになっています。人間性に成績評価は付けられませんので、その通りだと思います。

 単純化し過ぎかも知れませんが、現状の学習指導要領で「学びに向かう力・人間性等」は「主体的に学習に取り組む態度」と「感性・思いやり」で構成されており、「評定」を付けるのは「感性・思いやり」以外の「主体的に学習に取り組む態度」だということになります(「感性・思いやり」は評定を付けませんが評価はされます)。そして、この「主体的に学習に取り組む態度」を評価する際には、「学習の自己調整」と「粘り強さ」という2つの観点で行うこととされています。「主体性等」という言葉から受ける印象よりも深い意味があるのですが、もうこの辺りですでに大学側の捉え方とはずれが生じているのかも知れません。ただ、次期学習指導要領ではさらに現状の大学側の理解から遠ざかってしまうかも知れません。

 次期学習指導要領を検討している中央教育審議会の特別部会が9月25日に公開した「教育課程企画特別部会 論点整理」を見ると、現状の「主体的に学習に取り組む態度」(資料では「主態」とも記載)の評価には課題があるとされています。その課題の内容はぜひ「論点整理」をご覧いただきたいのですが、大学側が思っている以上に初中等教育の現場は苦心しているようで、この「主態」の評価の仕方が次の学習指導要領では変わろうとしています。

 公開された資料では「主態」は、新しく4つの要素に整理されています。それが「初発の思考や行動を起こす力・好奇心」、「学びの主体的な調整」、「他者との対話や協働」、「学びを方向付ける人間性」です。現在の「学習の自己調整」と「粘り強さ」よりもさらに掘り下げられています。この高校の「主態」が変わるとしたら、大学入試で行われている「主体性等」の評価も変わらなければならないのでしょうか。

【文部科学省】中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 教育課程企画特別部会「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/mext_00010.html

大学は「高大接続」の動きに付いていけるのだろうか

 大学にはそれぞれのアドミッション・ポリシーがありますので、無理に高校側に合わせなくても良いと思うのですが、ただ、高校側の学習評価の状況を見ると、総・推入試で単にやる気の有無を評価するだけでは足りないようにも思います。一方で、検討案では「主態」の評価はするが「評定」は付けないとしていますので、大学側が調査書などから「主体性等」を読み取ることは難しそうです。

 ところで、この教育課程企画特別部会の第1回開催日時を見ると2025年1月30日となっています。新課程入試の共通テストが実施された直後に、もう次の学習指導要領の検討が始まっていたことになります。確かに小学校、中学校は高校よりも先に全面実施されていますので、決して早すぎるわけではないのですが、大学が初中等教育の変化を的確に捉えて「高大接続」の動きに付いていくのには、情報を集めて理解するだけでもなかなか大変です。専門のアドミッション・オフィサーが常駐していないと難しいかも知れません。

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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