上位校の合格を手にしながら、武蔵大学への進学を選ぶ学生がいる。その理由は、武蔵大学でしか得られない学び――「パラレル・ディグリー・プログラム」の存在を知っているからだ。2015年のスタートから10年。日本の高等教育に「世界水準の学び」を持ち込んだこのプログラムは、いま保護者や高校教員の間でも高い注目を集め始めている。パラレル・ディグリー・プログラムを導入・運営してきた副学長の東郷賢教授に話を聞いた。

世界最高峰の学びを、日本のキャンパスで──武蔵大学国際教養学部のパラレル・ディグリー・プログラム
パラレル・ディグリー・プログラム(以下・PDP)は、武蔵大学の国際教養学部に在籍しながら、ロンドン大学のカリキュラムを並行して履修するプログラムだ。2015年に経済学部でスタートし、2022年に国際教養学部へ移行してからは「経済・経営学専攻(EM専攻)」(2027年度より経済・経営・国際関係専攻(EMIR専攻)へと名称変更し、新たに※国際関係学士号の取得が可能になる予定。)の学生を対象に実施されてきた。※国際関係学士号は2026年申請予定
ロンドン大学は、世界大学ランキングで常に上位に名を連ねる英国の名門大学だ。複数のカレッジで構成されており、経済学・経営学分野でトップクラスの評価を受けているロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(以下・LSE)が、PDPの学術監修を担っている。カリキュラムの設計から試験問題の作成・採点まですべてLSEが行い、すべての授業と試験が英語で行われる。そして、学生の答案は名前を伏せてロンドンに送付され、現地と同じ基準でブラインド採点される。
いわゆるダブルディグリー・プログラムとは異なり、PDPは留学が必須ではない。日本にいながらロンドン大学の授業を履修し、卒業時に武蔵大学の学士号とロンドン大学の学士号(BSc Economics and Management/経済経営学)を取得できる。武蔵大学は、日本国内でこのプログラムを実施できる唯一の機関としてロンドン大学から正式に認可を受けている。
4年間の流れはこうなる。1年次の4〜7月は英語の基礎強化と専門科目の事前学習にあて、8月末までに国際的な英語技能試験「IELTS」のオーバーオール5.5(英検準1級相当)、各技能5.0以上を取得。9月からロンドン大学の基礎教育プログラム(IFP)をスタートさせる。2年次の9月から専門課程(BSc)に進み、3年間で計12科目を履修。4年次修了後の5月に最終試験を受け、合格すると学位を取得できる。なお、留学は必須ではないが、東郷教授は夏休みを利用したLSEのサマースクールへの参加を推奨している。現地で世界中の学生と肩を並べて学ぶ経験が、日本国内では得られない広い視野と自信をもたらすからだ。
費用面では、武蔵大学の学費に加え、ロンドン大学の受講料が4年間で約12,900ポンド(日本円で約299万円、2025-2026年度時点)必要だ。ただし、現地への留学が必須ではないため、2年間の留学を伴うダブルディグリー・プログラムと比べて費用を大幅に抑えられる点が強みだ。さらに専門課程(BSc)の2〜4年次には、各学年最大30名を対象に給付型の奨学金も用意されている。学業成績が特に優秀な学生A(10名以内)にロンドン大学の学費全額が、次に優秀な学生B(30名からAを除いた人数)に学費の半額が支給される。
IB(国際バカロレア)入試の導入で、探究的な学びの素地を持つ学生を評価
こうした世界水準のカリキュラムに挑戦する学生を募るため、武蔵大学では入試制度の改革も迅速に進めている。2025年度の総合型選抜からは「国際バカロレアDiploma Programme(DP)型入試」を導入。さらに翌2026年度には、新たに「国際バカロレアMiddle Years Programme(MYP)型入試」もスタートさせた。
特筆すべきは、いずれの入試も非常に高い入学率を誇っている点だ。実績を見ると、2025年度のDP型入試では志願者3名が合格し、全員入学。2026年度もDP型は志願者2名が合格し全員入学。新設されたMYP型でも志願者1名が合格し入学している。高校時代からグローバルな視点や探究型の学びに親しんできたIB(国際バカロレア)の履修生にとって、日本にいながらロンドン大学の学位を目指せるPDPは、自らの強みを100%活かせる格好の舞台と言えるだろう。
学位取得者は、いずれも「コツコツ学んだ学生」
PDPはハードルの高いプログラムである。そのため、1期生・2期生の学位取得率は決して高くなかった。転機は3期生からだ。経済経営学の理解に数学力が不可欠であることから、選抜科目に数学を加えた。日本人の数学の習得レベルは世界的に見ても高い。「文系でも数学が普通に出来る学生」を視野に入れたことで、学びを積み上げる素地のある学生が集まるようになり、学位取得率が一気に向上した。

学位取得者の出身高校は、都立中堅校や通信制高校、地方の公立高校などで、さまざまなバックグラウンドの学生がロンドン大学の学位を取得している。「学位を取得できる学生の特徴は、コツコツ勉強できる人です。決して、高い学力があれば取得できるというわけではありません。」と東郷教授は断言する。大切なのは、不明点を積み残さないことだ。「わからないことが出てきたら、その都度、教員に確認して理解を深めることが何よりも大切です。」と東郷教授。武蔵大学は少人数制できめ細かな教育に定評があり、「自ら調べ自ら考える」力をもち、人々と協力して実践できる人材を育成してきた。PDPでも、教員が学生の疑問に一つひとつ丁寧に応えており、こうした武蔵大学ならではの教育により、学生たちは学び残しをせず、着実に理解を深めている。

一方、導入から10年以上が経ち、途中で脱落してしまう学生のパターンも見えてきた。「サークル活動やアルバイト、就職活動など、学業以外の活動に時間を割きすぎて、学ばなくなってしまう学生が少なからずいます。」と東郷教授。「もちろん、これらの活動を否定しているのではありません。学業に主軸を置きながら、サークルやアルバイトなどの活動を自分でコントロールできれば、高確率で学位を取得できるでしょう。」
では、学位を取得できないことが致命傷となるのだろうか。この点に関して、東郷教授はこう語る。
「PDPのカリキュラムは非常に厳しく、毎日、2時間の予習・復習を4年間続ける必要があります。厳しいからこそ、自ら学び、自走する習慣が身につきます。たとえ学位が取得できなくても、この習慣が身についていれば、社会に出てから自分の力で生き抜くことができます。」
学位取得者も、学位取得に至らなかった学生も、外資系IT企業や戦略系コンサルティングファームを中心に、多くの企業から高い評価を得ている。学位取得者の就職先はアクセンチュア、KPMGコンサルティング、PwCコンサルティング、NTTドコモ、NTTデータグループ、楽天グループ、SUBARUなど、外資系から国内大手企業まで幅広い実績がある。LSEや東京大学公共政策大学院など、世界各国の大学院に進学する卒業生も少なくない。

新専攻の誕生、9月入学の導入──2027年、PDPがさらに進化する
PDPはさらに広がりを見せており、2027年度にはPDPの履修を前提とした「ビジネスデータサイエンス専攻(BDS専攻)」が新設される。統計学・プログラミング・機械学習とビジネス課題の解決を組み合わせた専攻で、ロンドン大学の「BSc Data Science and Business Analytics(データサイエンス&ビジネスアナリティクス学士号)」が取得できる。「LSEが力を入れているプログラムで、学位を取得できれば国境を問わずキャリアの選択肢が広がり、国内はもちろん、大手外資系企業や海外大学院への道が開けます」と東郷教授は自信を見せる。
同じく2027年度から、9月入学も実施する予定だ。9月入学の実施により、多様なバックグラウンドを持つ学生が同じ教室で学ぶことで議論の質が高まり、PDP本来の『世界基準の学び』がより深まることを期待しています。」
こうした新展開の背景には、「PDPへの関心の高まり」がある。日本の大学教育に危機感を抱く高校生や保護者が、PDPに注目し始めているのだ。「子どもには、大学時代にしっかり学んでほしい」という保護者や、「世界で通用する力をつけたい」という受験生が、PDPという選択肢を視野に入れている。
ただし、東郷教授は「PDPを選ぶにあたって、保護者とお子さんの相互理解が大前提です。」と強調する。前述の通り、PDPのカリキュラムは厳しく、毎日2時間の勉強を4年間続ける必要がある。なかには勉強にいそしむ子どもを見て、「勉強よりも、サークルやアルバイトで社会経験を積むべきでは」と諭す親もいる。それでは、学生の可能性を閉ざしてしまう。このようなことが起きないよう、武蔵大学では毎年、合格通知後に「入学前ガイダンス」を実施し、PDPがどのようなプログラムで、学生に何を求めるのかについて、保護者と受験生の双方に丁寧に伝えている。

世界水準で学び抜く覚悟を持つ者だけが、世界水準で活躍する力を手に入れる
武蔵学園は創立以来、「建学の三理想」を掲げてきた。「東西文化融合のわが民族理想を遂行し得べき人物」「世界に雄飛するにたえる人物」「自ら調べ自ら考える力ある人物」──国際教育と自律的な学びを重んじるこの理念は、武蔵大学の教育の本質として受け継がれてきた。PDPはまさに、この理念を現代の世界基準で体現するプログラムといえる。
AI時代において、知識の量だけを競う時代は終わりを迎えつつある。求められるのは、未知の課題に対して自ら問いを立て、世界中の知見にアクセスし、論理的に解決策を導き出す力だ。PDPで4年間、毎日2時間の予習・復習を積み上げた学生には、この「学び続ける力」が身につく。それは大学卒業後も、社会のあらゆるフィールドで自走し続けるための「揺るぎない土台」となる。
「PDPを最後まで学び切り、学位を取得できるか。それは、自分で学ぶ姿勢があるかどうかに尽きます」と東郷教授は語る。「武蔵大学でコツコツと学びを積み上げてきた学生は、大学を出た後もその姿勢を持ち続け、社会のさまざまな課題と向き合っていくことでしょう。卒業生には、そういう人間になってほしいですね。」
「世界水準で学び抜く覚悟はあるか」──これは武蔵大学国際教養学部が、PDPを選ぶすべての受験生に投げかけるメッセージだ。その覚悟を抱いて学び続けた者だけが、世界水準で活躍する力を手に入れる。

武蔵大学 国際教養学部 教授・副学長
東郷 賢(とうごう けん)
早稲田大学第一文学部(美術史学)及び政治経済学部(経済学科)を卒業後、日本輸出入銀行(現・国際協力銀行:JBIC)に勤務。その後、イェール大学大学院に進学し、経済学博士号(Ph.D.)を取得。専門は開発経済学。発展途上国の経済成長メカニズムや日本の戦後復興におけるガバナンスの役割、アジア諸国の産業政策などを研究テーマとしている。武蔵大学が国内で初めて導入したパラレル・ディグリー・プログラム(PDP)の立ち上げから中心的な役割を担い、現在もプログラムの運営・発展を牽引している。
