「ペットボトルにQRコードをつけただけ」。言ってしまえば、学生たちの提案は確かにこれだけである。しかし、この企画を中日ドラゴンズに提案するためには、非常に多くの努力を要した。まず何よりも、球団職員の方々は決して「若者」ではない。そのため、「そんなことをしてどんな意味があるの?」という疑問をもたれたのは当然のことである。この疑問を解消するために数百サンプルに及ぶアンケートを複数回行う必要があった。また、このQRコードを付すためのコストについても試算せねばならなかった。そのため、飲料メーカーや印刷業者に何度も連絡をとって印刷代を初めとするコストについて聞き出すという作業も必要であった。これらの過程で商品企画に関する知識はもとより、アンケート調査の方法やインタビュー手法、あるいはコスト試算の考え方についても学ばねばならない。それらは全て自身の勉強材料として、各自に課せられた課題となっていた。

もちろん、筆者が指導教員として(あるいは産学連携のパートナーとして)球団職員の方に「学生の企画を使ってやって下さいよ」と頼み込めば、学生たちが説得力に欠ける提案をしたままであったとしても提案を採用してもらえたのかもしれない。※

このような問題については、拙稿(「何故、アクティブラーニングがうまくいかないか」)でも指摘した通りだ。筆者は、そのように学生に楽させることなく学ぶ題材を提示し続けることが教員に求められることなのだと考えている。その際、学生たちに次々と課題を与える「題材」としては、商品企画や販促企画だろうが、数学や英語だろうが、社会学や物理学だろうが可能なはずであるというのが筆者のスタンスである。重要なのはその学問領域(や活動内容)において、受講生に彼(女)の現有知識・能力よりもやや難易度の高い課題をいかに与え続けるか、これに尽きるのではないだろうか。

あるいは、これは全く学術的でも学問上の問題でもないことではあるが、チームを組んだ学生たちがチーム内外で議論を重ねるということ自体すらも、学生たちにとっては非常に大きな課題となる。筆者の個人的経験からいえば、近年の学生は往々にして「なぁなぁ」の議論を行う傾向にある。そのため、真剣に議論をしあったり、互いの意見を批判しあうということを苦手としているようだ。そのような弱点を克服するということも、本活動で求められたことの一つである。あるいは、球団職員という企業人への連絡の取り方、チーム内での情報共有やスケジュール管理といった所謂「ホウレンソウ」も、彼(女)たちが修得したことの一つだろう。

今の受講生の知識や能力はどの程度のものであり、講義や活動を通して彼(女)に何を学ばせることができるか。このようなことを考え続けることによって、どのような学問領域・活動であろうと受講生の成長に結びつけることはできる。これが、筆者なりのALに対する一つの解である。

※球団職員の方の名誉のために補足しておくと、職員の方々は皆さん非常に真摯に本講座を行って下さっており、実際には、たとえビジネス上で優れたアイデアであったとしても、説得力に欠ける提案を採用するなどということはされない。あくまで学生指導の一環として本講座にご協力下さっている。

シリーズ「アクティブラーニングの実効性における課題と解決方法」
第1回:アクティブラーニングのテーマはどう選ぶべきか
第2回:アクティブラーニングに座学は必要か
第3回:意欲の低い学生にいかにアクティブラーニングを行うか
第4回:アクティブラーニングにおける評価の難しさ

過去記事
アクティブラーニングによる課題解決型産学連携講義の意義と課題
何故、アクティブラーニングがうまくいかないか

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坂田 隆文

坂田 隆文

中京大学総合政策学部教授、博士(商学)、中京大学教育推進センター委員会能動的学修推進部会部会長。名古屋大学、名古屋市立大学、金城学院大学非常勤講師。マーケティング戦略論、流通論、商品企画論を主な専門とし、「面白さ」と「わかりやすさ」と「有益さ」という3つを重視した講義・研修で定評がある。近著に『1からのマーケティング・デザイン』(共編著、碩学舎)、『1からの商品企画』(共著、碩学舎)がある。近年では名古屋で若手企業人を集めた異業種交流勉強会を主宰するなど、活動の場を広げている。詳細は担当ゼミHP(http://www.sakataseminar.jp/)にて。