30年以上前、一人の学生がMITの施設でウェブブラウザーの原型となるソフトウェアを目にした。画面には、何千キロも離れたスイス・CERN(欧州原子核研究機構)のサーバーから取得した詳細な情報がリアルタイムで表示されていた。「これは世界を変える」——その確信は、後に京都情報大学院大学(以下KCGI)の教員となる中口孝雄教授の原点となった。
帰国後、KCGIの母体である京都コンピュータ学院(KCG)にインターネット回線とコンピュータが導入されたばかりのタイミングで、当時KCGの学生だった中口教授はアルバイトとしてそのシステムのメンテナンスを担当した。京都駅前の校舎からホワイトハウスのウェブページを呼び出したとき、インターネットが「遠い研究者たちのもの」から「自分の手の届くもの」に変わった瞬間を体感した。その後、システムエンジニアを経てKCGIの一期生として入学し、ビジネスと技術の両輪を学び、京都大学の博士課程で学位を取得して教壇に立つ——中口教授の経歴そのものが、KCGIが目指す人材像の縮図かもしれない。

技術とビジネスを共に学ぶ意義
KCGIは、日本最初にして唯一のIT専門職大学院として2004年に開学した。その根幹にあるのが、アメリカで発展した「プロフェッショナルスクール」という教育モデルだ。ITの知識を学ぶだけでは足りない——では、その知識を活かす舞台は何か。KCGIの答えは「ビジネス」だ。「産業界が求めているのは、単にITの知識を持っているだけではなく、より有効に活用してビジネスを変えていける人材です。そのためには、ビジネス側の実践的な知識も学ぶ必要があるというのが開学当初からのコンセプトです」と中口教授は語る。
この考え方は、AI時代においてさらに重要性を増している。「技術が変わったからといって、本来大切なことは何も変わっていない」と中口教授は繰り返す。検索結果やAIの出力をそのまま使っていては、文献を丸写しして提出しているのと変わらない。適用先のビジネスにとって何が重要で、どこを抑えるべきかを見極め、出力をより適した形に昇華させ適用する力こそが、技術と並んで求められている。テクノロジーに何を委ね、何を任せてはならないかを判断できる人材——それがKCGIの教育が目指すゴールである。
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