九州大学基幹教育院の田村かおり特任助教、岡本剛准教授、システム生命科学府一貫性博士5年濱川昌之大学院生は、柑橘系の果物に含まれる匂いがオレンジ色を覚えにくくする効果があることを発見した。
研究グループは今回、柑橘系の果物に含まれる「デカナール」という匂い物質を使用し、この匂いがあるとき(匂い条件)と無いとき(無臭条件)の2つの条件で、オレンジ、ピンク、グリーン、ブルーに関する色短期記憶課題を行う実験を実施した。そして、実験参加者の記憶想起時の脳波を計測し、脳活動の瞬間的な電気的変動を表す「事象関連電位P3成分」を解析した。
その結果、オレンジ色に対してのみ、無臭条件下より匂い条件下で記憶成績低下が見られた。また、匂い条件下では、オレンジ色に対するP3が低い振幅を示した。
前頭部に出現するP3は、情報に対する注意と関連することが知られている。すなわち、柑橘系に含まれる匂いを嗅いだとき、同じく柑橘に関連する「オレンジ色」への注意が低くなり、オレンジ色に対する記憶成績低下を招いたと考えられる。
研究グループは実験前、柑橘由来の匂いがオレンジ色の記憶を高めると予想していたが、この予想は見事に裏切られた。例えば、安易に匂いをつけた広告は、逆効果になるかもしれないという。
本研究は、嗅覚情報が特定の視覚情報に影響を与える可能性を示すもので、複数感覚の統合機構の解明に役立つことが期待される。