東京大学大学院、理化学研究所、北海道大学大学院の研究グループは、新しい相分離現象「ゲル・ゲル相分離」を発見し、この現象を利用して世界で初めて水になじみにくい含水率99%のポリエチレングリコール(PEG)ゲルの合成に成功した。新たな組織再生材料として医療分野での応用が期待される。
病気や老化で機能を失った組織の再生には、細胞の定着・増殖用の基盤となる足場が必要となる。しかし、生体由来の足場材料は、異物反応や感染症のリスクがあり、人工合成物質の方は生体親和性が低く、細胞が定着しにくいという問題があった。
研究グループは、新たに発見された「ゲル・ゲル相分離」という現象を利用して、99%の水と1%の合成高分子PEGからなるゲル(ハイドロゲル)材料を開発した。「ゲル・ゲル相分離」は、含水率99%の均一なゲルが濃厚(網目が密)なゲルと希薄(網目が疎)なゲルの2相に分離する現象のこと。
これまで、PEGは親水性で細胞付着性に乏しいとされてきた。しかし、ゲル・ゲル相分離が生じたPEGゲルはスポンジ状の構造を持ち、水を99%含むが油のように水を弾く疎水性を示した。水分量が多いほど、ゲル・ゲル相分離の度合いが顕著で、水となじみにくくなるという直感に反した結果が得られた。この材料をモデル動物の皮下に埋め込む実験の結果、周囲から細胞が入り込み、血管を含む脂肪組織が形成された。これにより、PEGゲルの組織再生足場材料としての可能性が一気に広がった。
慢性創傷や糖尿病性足潰瘍などの病気は、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させ、治療費を増大させる。研究グループは、今回発見したゲル材料の応用により、これらの病気の治療方法が大きく進歩するとみている。
論文情報:【Nature Materials】Percolation-induced gel–gel phase separation in a dilute polymer network