個体老化に伴い体内に蓄積する「老化細胞」は、若い細胞に比べて“死ににくい”ことが知られている。これらの細胞は老化したまま生存し続け、炎症性サイトカインを放出して慢性炎症を引き起こす。慢性炎症は、多くの加齢性疾患の悪化因子となるだけでなく、ストレスや環境変化に対応して速やかに回復する力、すなわち「レジリエンス」を低下させ、個体老化を促進すると考えられている。

 低下したレジリエンスを回復させる方法として、老化細胞そのものを除去する「セノリシス」が近年注目されている。これまでに、セノリシス薬として開発されたABT263は、マウスで加齢性疾患を改善する効果が報告されているが、副作用の問題から、ヒトへの臨床応用は困難であった。

 今回、京都大学の研究グループは、解糖系酵素PGAMとシグナル伝達キナーゼChk1の異常な結合亢進により、老化細胞の生存能が高まっていることを新たに見出した。そこで、PGAMとChk1の結合を阻害する新規のセノリシス手法を検討した。その結果、若い細胞には毒性を示さず、老化細胞に選択的な細胞死(アポトーシス)を誘導できることを確認した。

 PGAM-Chk1結合阻害によるセノリシスは、高齢マウスモデルにおいて慢性炎症を減少させ、肝臓、腎臓、肺の機能回復に有効であることが示された。その効果は、先行薬であるABT263とほぼ同等であることが判明した。また、代表的な難治性加齢疾患の一つである「肺線維症モデル」においても症状の改善が認められ、加齢性疾患に対する新たな治療法としての有効性が示された。本手法は、ABT263よりも安全性が高く、将来的なヒト臨床応用も有望である。

 「多病で多様な高齢者」が増加するグローバル高齢化社会において、従来の臓器別治療アプローチとは異なり、「老化」そのものにアプローチする「老化治療」は、21世紀的重要生命課題の一つである。セノリシスは、老化を標的として健康回復を目指す新概念であり、新たな社会的価値や健康概念の創出につながる可能性を秘めている。老化先進国である我が国が、独自のセノリシス手法であるPGAM-Chk1結合阻害の具現化により、トップランナーとしてグローバル医療革新に貢献することが期待される。

論文情報:【Signal Transduction and Targeted Therapy】Abrogation of aberrant glycolytic interactions eliminates senescent cells and alleviates aging-related dysfunctions

京都大学

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