Anthropology: Tool use may be socially learned in wild chimpanzees
長期におよぶ野外研究から、野生チンパンジーのある集団は、近隣の別の群れが道具を使って木の実を割っている場合でも、木の実を割るための石を与えられても木の実を割らないことを明らかにした論文が、Nature Human Behaviour に掲載される。この結果は、野生チンパンジーが道具の使用を容易に習得できるわけではないことを示唆しており、またそうした行動が社会的に学習されなければならないことを示唆している可能性がある。
ヒトは、道具の使用などの技能を、互いを観察することで学習する。ヒトの文化は、このような社会的学習を通して次第に複雑化してきた。しかし、こうした累積的な文化がヒトに特有のものかどうかについては議論が続いている。飼育下の類人猿を対象とした過去の実験では、それらが教えられなくても道具を使用し始めることが分かっているが、飼育下の類人猿は、ヒトが道具を使用するところを観察しており、そこからこうした行動を学習している可能性がある。
今回、Kathelijne Koopsたちは、長年にわたる野外実験において、ギニアのセリンバラ村の野生チンパンジーの群れに対し、近隣のチンパンジーの群れが木の実を割るのに使っているのと全く同じ道具を与えた。Koopsたちは、チンパンジーに木の実も与え、その後の様子をカメラトラップを用いて撮影した。その結果、チンパンジーたちは当初、道具に興味を示したものの、それを使って木の実を割ることはせず、数か月のうちに次第に興味を失っていった。しかし、6キロメートルしか離れていないギニアのボッソウ村の別のチンパンジーの群れは、道具を使って木の実を割る。
以上の結果は、チンパンジーの文化の性質に関してさらなる知見をもたらす。チンパンジーの木の実割りは、特定の群れだけが実践する文化的な行動であると考えられる。今回の実験は、こうしたチンパンジー文化の一部は、他のチンパンジーによって、たとえそれらが道具を与えられたとしても、容易に獲得されるわけではないことを示唆している。Koopsたちは、チンパンジーの文化は、ヒトの文化と非常に似ており、社会集団内における学習を通じて発達する可能性があると考えている。
[英語の原文»]
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「人類学:野生チンパンジーの道具の使用は、社会的に学習されている可能性がある」