ダニ媒介感染症の一つである日本紅斑熱は、近年国内で急増しているとの報告が当局や各施設から相次いで寄せられ、社会的問題となりつつあるにもかかわらず、実際に「どのくらい」、「どこで」、「どんな人に」増えているかは明らかではなかった。今回、岡山大学の研究グループは、初めて日本紅斑熱の発生トレンド解析を行い、日本全体として指数関数的に増加していることを明らかにした。

 日本紅斑熱が本邦で初めて報告されたのは1984年で、以降しばらくは特定地域(太平洋岸や西日本などの温暖な地域)で極めて稀に発生する疾患として認知されてきた。ところが、近年の患者数は年々増加傾向にあり、一部の患者では播種性血管内凝固や多臓器不全に至り致死的となることもあるという。流行動向・疫学の正確な把握が求められるが、増加傾向にある地域や患者層といった知見が不十分だった。

 国立感染症研究所が公開する日本紅斑熱発生数の公開データを用いて本感染症の20年分の発生率を年齢層別・都道府県別に推算した本研究では、まず、日本紅斑熱の発生が日本全体として指数関数的に増加していることを示した。本感染症の2001年の日本全体での年間発生率は、人口10万人あたり0.03だったが、2020年には0.33と約10倍に増加した。平均の年間変化率にすると、12.3%の増加だった。特に、65歳以上の高齢者層や、これまで多発地域と見なされていなかった比較的寒冷と思われる東日本の都道府県において、急増傾向であることが認められた。

 高齢者や東日本で急増していることからは、地球温暖化や人間活動の影響がその原因として示唆されるとしており、日本紅斑熱以外にも世界的なダニ媒介感染症流行の原因の推測や、公衆衛生学的対策を検討する上で重要な研究成果である。

論文情報:【American Journal of Tropical Medicine and Hygiene】 Trends in the Incidence of Japanese Spotted Fever in Japan: A Nationwide, Two-DecadeObservational Study from 2001-2020

岡山大学

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