高校生や高専生が、自分のアイデアを社会に向けて発信する。そんなピッチコンテスト※が、大学を舞台に広がり始めている。近畿大学がオープンキャンパスに合わせて実施する「START LINE PITCH 2026」には、初回にもかかわらず全国から約600件近い応募が集まった。協力するのは、昨年7月に近畿大学と戦略的連携協定を結び、開学以来「起業の大学」を掲げてきたiU 情報経営イノベーション専門職大学(以下iU)。なぜ今、すべての高校生に開かれたコンテストなのか。近畿大学常任理事の世耕石弘さんと、iU副学長の古賀稔邦さんに聞いた。
※短時間でビジネスプランを審査員や投資家にプレゼンして競うコンテスト
近畿大学 常任理事・経営戦略本部長世耕 石弘 さん(写真左)とiU情報経営イノベーション専門職大学副学長 古賀 稔邦 さん(写真右)が語る
――はじめに、戦略的連携協定のきっかけの一つが起業家育成教育での連携でしたが、まず両校の起業家育成の現在地をお聞かせください。2年連続『起業率』トップのiUさんはいかがでしたか?
古賀:おかげさまで『学生ベンチャー数』では9位、『学生ベンチャー率ランキング』では学生数が比較的少ない事もありますが、9.31%とこれは3年連続1位をキープしました。
世耕:さすがですね。本学はすべての指標で上向いていて、『大学発ベンチャー数』では10位、『学生ベンチャー数』では3位でした。

――起業家育成教育の一環として、近畿大学ではこれまで近大生・附属高校生対象に近大ビジコンを実施してこられたと思いますが、今回、高校生、高専生を対象にオープンコンテストをはじめられた理由は何でしょうか。
世耕:これまでは大学生の起業支援に意識が向いていて、高校生にまで目が届いていたわけではありません。ようやく学取組が軌道に乗ってきたと判断し、オープンキャンパスに集まる高校生に、コンテストの舞台を用意したいと考えました。高校生が参加できる開かれたピッチコンテストはいくつもありますが、大学が主催するものを増やせば、全体的に参加のハードルが下がるのではないかとも思っています。
――高校生にとっては、企業や団体の主催よりも、大学主催の方が参加しやすいということですね。
世耕:そうです。16歳、17歳の生徒が、企業・団体に個人情報を送って応募するのは勇気がいる。その点、大学主催だと、本人や保護者、高校の先生も安心ですし、これも大学の役割の一つではないかと思っています。
古賀:高校では探究学習が広がり、自分たちで調べ、考え、発表する機会が増えています。ビジネスモデルを考えたり、起業を構想したりするのはそれと非常に相性がいいのではないでしょううか。iUでも高校からの要請を受け、教員が出向いて、「どうすれば社会課題を解決できるか」の授業に協力することがあります。
――今回、応募はどのように広がったのでしょうか。
世耕:近畿・西日本を中心に、これまでの高校とのつながりを活かし、関係部署が直接案内したり、郵送やウェブで告知するなど、短期間でしたが、できることは全てやりました。ただ、初の公募ということで、どのくらい集まるかは不安でした。蓋を開けてみると、全国から約600件近くの応募があり驚いています。先生方や生徒さん自身が、起業に対してかなりアンテナを張っていることもわかりました。
古賀:iU側でも、学生募集のスタッフが高校約600校にチラシを持って説明に出向きました。通常の募集活動に加え、近畿大学さんと連携していることを高校の先生方に伝えられ、とても有意義でした。
――応募内容にはどのような傾向がありましたか。
世耕:これまでざっと見た印象ですが、社会課題の解決をテーマにしたものが多いですね。かつての起業には、「社長になりたい」「お金持ちになりたい」という動機によるものが多かったイメージがあります。でも今の高校生や大学生は、授業や探究活動を通じて社会課題に触れることも多く、ボランティアだけでなく、事業で解決しようという発想を自然に持てるのではないでしょうか。

古賀:同じ印象ですね。以前は株式公開したい、というような動機が目立っていた印象がありますが、今は本当に社会課題を解決したいという思いが前に出ている。女性を取り巻く課題など、自分の身近な問題から出発しているケースも多いのではないでしょうか。
――起業に興味を持つ高校生が増えている背景には、社会の変化もありそうです。
古賀:生成AIの台頭によって、ホワイトカラーの仕事にも変化の兆しが見えています。高校生も、「会社に入れば安泰」という時代ではなくなりつつあると感じているのではないでしょうか。何が安定的な人生なのか分からない時代だからこそ、自分で何かを生み出す力が必要だという感覚が広がっている気がします。
世耕:もっとも大学生全体を見ると、やはり多くはまず新卒で就職することを考えます。だから本学では、「全員起業しなさい」とは言っていません。ただ、学生数が多いので、起業に関心を持つ学生がたとえ全体の5%でも、大きな人数になります。ですから起業したい、あるいはそういうマインドを持っている学生さんを支援することはとても大事です。就職も起業も、どちらの選択肢もきちんと支えたいですね。
古賀:「全員起業!」を掲げてきたiUですが、卒業生の多くは就職します。しかし起業家マインドを身につけておけば、組織の中でも役立ちます。自分で選んだ道に向かって、主体的に動けるからです。


――近畿大学のある東大阪は、モノづくりのまちとしても知られています。起業家育成教育には適した立地だと思われますが。
世耕:東大阪は「中小零細の町」と言われることもありますが、私はむしろ「起業の町」だと思っています。ゼロから会社を立ち上げ、人を雇い、事業を発展・継続していく。扱う製品も、テレビ部品から携帯電話部品へといったように、時代に合わせて、しぶとく、環境変化に対応してきた。この精神には、今の高校生にも伝わるものがあると思います。
――今回のコンテストは、入学者の選抜にも関係するのでしょうか。
世耕:本学には起業型の総合型選抜を行っている学部もあります。もちろんコンテストで上位に入ったからといって、それだけで合格が決まるわけではありませんが、ピッチコンテストで評価された経験が有利に働く可能性はあります。ちなみに最優秀賞受賞者は一次審査を免除※されます。
※ 近畿大学経済学部 総合型選抜C(起業志向型)1次審査免除について対象:「最優秀賞」(1組)最大3名(最終プレゼン登壇者に限る) 補足: 2029年度(令和11年度)入試まで有効。ただし、当該入試制度の見直し等により入試制度に大きな変更や廃止等があった場合は、事前の通告なく本権利が失効する場合があります。
――最後に、今回はエントリーボタンを押さなかった高校生にメッセージをお願いします。
古賀:何かに挑戦するために、自分で考えをまとめて応募する。それ自体、とても得がたい経験です。高校生活には楽しいことがたくさんあると思いますが、一つの目標に向けて頑張ることは、将来への大きな糧になるはずです。ぜひ挑戦してほしいですね。
世耕:高校生が「若者」として社会から見られる時間は、実はそれほど長くありません。だからこそ、その間にいろいろな体験をしてほしい。起業には勇気がいるかもしれませんが、すべてはエントリーボタンを押すところから始まります。ジェットコースターに乗るような気持ちで、一歩踏み出してみませんか。
「大学に入ってから」「就職してから」ではなく、高校生のうちから社会の課題を見つめ、自分のアイデアを言葉にしてみる。そこに、これからの学びと進路の新しい可能性がある。起業は特別な誰かだけのものではない。小さな勇気から始まる、未来への選択肢なのだ。
(6月18日@近畿大学インキュベーション施設「KINCUBABasecamp」)
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START LINE PITCH 2026
(近畿大学高校生ビジネスアイデアコンテスト)
開催日時:2026年8月23日(日)
13:00-16:00(12:30開場)
開催場所:近畿大学 東大阪キャンパス
11月ホール3階(小ホール)
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