玉川大学キャンパス内では、新たな複合スポーツ施設「Sports Center SANITAS(サニタス)」が建設中。2027年度からの利用開始をめざしているSANITASは、工事現場に最新の建築DX技術が導入されている。2025年11月20日には工学部情報通信工学科の学生が、授業の一環で採用されている最新のDXを学ぶために工事現場を見学した。建設中のSANITASを学びの舞台として活用した、見学会の様子を紹介する。

ウェルネス教育の新たな拠点に
「Sports Center SANITAS」(以下、サニタス)は、旧工学部校舎の大学8号館跡地に建設中の大規模な複合スポーツ施設。アリーナ(大体育館)や屋内温水プールをひとつの建物内に集約し、さらにトレーニングルーム「ウェルネスデザインラボ」や、オレロップ体操室を設ける。玉川の学園の教育理念である「全人教育」における6つの価値のうち、「身体(健)教育」を実践する拠点となる建物だ。
サニタスは、建築面積:8,019.29㎡、延床面積:14,283.46㎡、構造種別:SRC造一部S造、屋根架構:吊り屋根架構、地下1階・地上3階の複合スポーツ施設となる。
環境への配慮が随所に見られるのも特徴的。たとえば屋根には太陽光発電設備を取り付け、キャンパス内の二酸化炭素排出量を実質的に半減させることをめざす。この取り組みは、環境省が定めるZEB(Net Zero Energy Building)オリエンテッドの公式認証を取得した。

また、工事現場には3D図面を作成できる「BIM(Building Information Modeling)」や、ドローンによる上空からの撮影、ARを使った現場チェックなどの最新技術を導入。建築DX技術が活用されている工事現場は、学生たちの学びの場にもなっている。玉川学園・玉川大学が西松建設と共同で、生徒・学生向けの工事見学会を実施しているからだ。
「学びが社会でどう活かされているか知ってほしい」学生向けの工事見学会
11月20日には、工学部情報通信工学科の学生17名が工事現場を訪れた。見学会は、ロボット開発の基礎を学ぶPBL(課題解決型学習)型の授業「ロボットプロジェクトA」の一環として実施。授業を担当する水地良明先生、堀三晟先生、そして工学部長の山﨑浩一先生も同行し、建設途中のサニタスや、建築DX技術の一端を見学した。
授業内で見学会を実施した意図を、水地先生は次のように語る。
「座学や演習でロボットやAI、ICTに関する技術そのものについて学ぶ機会はありますが、それが応用されている現場に触れる機会は多くありません。学内の活きた教材を柔軟に取り入れて課題設定や今後の学びにつなげれば、学生にとって非常に有意義な機会になるでしょう。大学で学んだ内容が予想もしなかったさまざまな分野で応用され、役に立っているのだと実感してもらう機会になればと思います。」
見学会冒頭、山﨑工学部長も今回の趣旨を説明。「普段の工学部の授業だけではわからないことが学べる機会。建築途中のサニタスを、社会で学びがどう活かされているか知る教材にしてほしい」と述べた。また、今回の見学会の参加者は1年生が中心。サニタスが利用開始となる2027年度も在学予定の学生が多いため「完成後も施設への親近感を持ってもらえるのでは」と期待を口にした。
続いては西松建設の佐藤所長や西田副所長らが工事の概要を説明。BIMで作られた3D図面を見せながら、建築方法や特徴を解説した。とくに独特なのが、大屋根のつり構造と、プールの壁・床。つり構造にすることで屋内を通る風の圧力が変化し、自然換気が促されるそうだ。また、プールは玉川学園に通う幼稚園児から大学生まで幅広い年齢層が使用するため、壁や床を機械で動かし適切な距離や深さを実現する。
事前説明や注意事項を確認したのち、いよいよ工事現場の見学がスタート。1階部分ではタブレット端末で図面のARと現在の工事現場を重ね合わせ、進捗を確認する姿が見られた。これには学生たちも興味津々。タブレットを借り、工事中の建物とARを見比べていた。
大屋根の見学では、安全帯を装着して足場を上り、地上約40mの天井よりも高い場所へと移動。屋根の鉄骨は種類を使い分けており、プール部分には湿気に強い塗装をしたものを採用しているという。建設途中の屋根を見下ろす、という貴重な経験に学生も教員も感嘆の声を上げていた。
ほかにもアリーナとプールの間に設けられた通路「コミュニケーションコリドー」を歩いたり、地下に作られたオレロップ体操室を見下ろしたりと工事中の施設全体を見学した学生たち。現場を実際に目にすることで、話だけではわからなかったスケールの大きさを 実感し、状況を俯瞰的・多面的に捉え、円滑に作業を進めるための技術の必要性を認識したようだ。

DX技術で進化した、工事現場の“今”を知る
見学終了後、西松建設の西田副所長をはじめ本社や研究所の社員が建築DX技術や土木関連のDXの最新動向などを解説した。話題の中心となったのは、図面に使用されているBIM。3Dモデルを作ることで完成イメージが共有しやすくなったり、物の配置に問題がないか確認しやすくなったりと、さまざまな利点があるという。見学会で目にした場所が将来どのような姿になるのか、学生たちもBIMを見ながらイメージを膨らませていた。
さらにBIMの一部を選択すると、その箇所に使われている材料の種類や数量なども自動で計算可能だ。繁雑な作業が短時間で済むため、現場の負荷が大きく軽減されている。
学生たちの関心に合わせて、山岳トンネル建築現場で研究開発中の技術に触れる場面も。重機の無人化やリモート運転技術、デジタルツイン構想など、未来の工事現場の姿を紹介した。
最後は学生との質疑応答を実施。「情報系人材は今後建設業界でも必要になりますか?」との質問には、西松建設側から「今からでも来てほしいくらいです」との回答が。工事現場はもちろん、技術開発をする研究所でも活躍できるそうだ。建築業界という意外な進路に、情報通信の技術を学ぶ学生たちも気づきを得た様子だった。

建築業へのイメージが変わった。学生たちが見いだした今後の目標
見学会終了後、学生たちに感想を伺うと「設計図から部品の確認まですべて手作業で行っているイメージがあったので、ICTを使って作業を進められる便利さに感銘を受けました。」、「建設は『現場で作業する仕事』だと思っていましたが、『現場とデジタルが融合した仕事』へと印象が変わりました。」、「ARやBIMがあれば現場でのミスが減り、作業しやすくなると思いました。」などの声が。最新の建築DX技術から刺激を受けたようだ。
また、「今回の見学で建設業に興味がわきました。」と回答した学生も多数。「工事現場でも活躍できるロボットを開発したいです。」、「工事現場などで実際に使われている技術を紹介してもらったことで、私も将来そのようなものを作って人の役に立ちたいと思いました。」など、今後の学びの目標を見いだしていた。
水地先生も学生たちの様子から、見学会の手応えを感じたという。
「学生からも驚きや実感の声が多数あり、見学会の目的はじゅうぶんに達成できたと思います。今回の経験を機に、より広い分野に目を向けられるのではないでしょうか。専攻分野の技術・知識を駆使してどのような課題解決をしていきたいか、キャリアや研究テーマを考えるきっかけにしてもらいたいです。」
サニタスは2027年4月より利用開始予定。工事期間中も活きた教材の学修の場になり、玉川大学生にとって建築DX技術の最前線を身近で実践的に学べる貴重な機会を提供するものとして期待される。
