
単体の学問分野ではカバーできない、奥深い学び
2026年4月に開設される社会学部は、従来の人間科学部から独立する形で誕生する。最大の特徴は、3つの専攻――メディア社会学専攻、ビジネス社会専攻、生活環境学専攻――が一つの学部に融合している点だ。
「複雑化した現代社会を学ぶには、単一の学問分野では理解できない」というコンセプトのもと、学生は自分の専攻に所属しながらも、他の専攻の授業を自由に履修できるカリキュラム構成となっている。
社会学部が掲げる「多面的」とは、例えばこんな学びを意味する。インスタ映えするカフェに行くことが趣味の高校生が、カフェはサードプレイス(家でも職場でもない第三の場所)として求められていることを社会学で学ぶ。そこで『自分もカフェを作りたい』と思ったら、ビジネス社会の科目で企画の立て方や実践方法を学べる。さらに生活環境学の科目でメニューを考え、店員の制服やインテリアもデザインできる。一つの現象に多面的にアプローチできる学生を育てたいというのが狙いだ。
特にユニークなのは、家政系の学びである生活環境学専攻が社会学部に含まれている点だ。「他の大学の社会学部に元家政系の専攻が含まれることはほとんどない。これは女子大だからこそできる面白さ」と池田教授は強調する。例えば、推し活のために夜行バスで推しに会いに行く学生が、どんな夜食を考えればいいのか――ファン研究の社会学と食の知識を組み合わせて考えることができるのだ。

「好き」を原動力に、教室を飛び出す
各専攻では、企業や自治体と連携した実践的なプロジェクトが数多く展開されている。メディア社会学専攻では、ワコールとの産学共同によるコラボ商品や、プリントシール機メーカーのフリューと女子大学が協働する企画など、これまでの取り組みが引き続き受け継がれる予定だ。
ビジネス社会専攻では、保護猫支援に繋がる新商品を企画・開発し、クラウドファンディングで商品化するプロジェクトなどを通じて、社会貢献をビジネスの力で実現する手法を修得する。この実践の過程では、メンバーそれぞれの強みを持ち寄って目標を達成する「新リーダーシップ」を養う。
「生活環境学科」を母体とする生活環境学専攻では、農林水産省と連携した和食食育プロジェクトをはじめ、古着をアップサイクルした循環型ファッションショー、防災衣服や防災食の開発など、家政学の枠を超えた社会課題の解決に継続して取り組む。フードスペシャリスト資格の取得が可能なのも、この専攻の特徴だ。
「一人で知識を磨く時代から、常に人と何かをつくり上げる時代に変わった」と池田教授は語る。グループワークや企業との協働を通して、「他者を巻き込みながら物事を前に進められる人材」の育成を目指している。
こうした学びを支える場として、社会学部の「コモンルーム」もリニューアルされる。コモンルームは、学生と教職員が共に利用できる交流拠点だ。専門書籍に加え、パソコンやDVD、大型テレビなども備え、甲南女子大学を象徴する学修環境の一つとなっている。
「好き」を起点に社会で活躍できる人材へ
「就職に強い大学」として関西で名高い甲南女子大学が、新学部の卒業生にはどんな活躍を期待するのか。「一つのものをいろんな角度から見られる学生になってほしい。それによって今の状況を把握し、自分がどう行動すべきかを考えられる人材」だと池田教授は答える。
社会学部が重視するのは、「何を学ぶか」ではなく、興味関心を起点に「何が学べるか」を自ら切り拓いていく姿勢だ。受動的になりがちなSNS社会にあっても、「推し」のこととなれば深く掘り下げられる若者は多い。新しい社会学部は、こうした現代社会の変化を的確に捉えながら、社会学的な広い視野と実践的なスキルを併せ持つ人材の育成を目指している。
アニメが好き、アイドルが好き、カフェが好き――そんな「好き」を起点にした学びが、多面的な視点と柔軟な思考力を育て、社会で活躍する力へとつながっていく。「好き」を深く掘り下げることは、自分を知り、これからの社会でどう生きるかを考えることにほかならない。“南女の推し活界隈”が、社会とどうつながっていくのか。その行方が楽しみだ。

甲南女子大学社会学部 学部長(就任予定)
池田 太臣 教授
2005年の甲南女子大学着任を機に、従来は男性中心に語られてきたオタク像とは異なる女性オタクの存在に着目し、オタク文化・ファン文化の研究を開始。2012年にはその成果を『女子の時代』として刊行した。以降、日本の「オタク」文化を、1980年代以降に英語圏で発展してきたファン研究の枠組みと接続し、日本独自のファンの在り方や文化的特徴の分析に取り組む。近年は、「推し活」の社会的広がりを背景に、現代的ファン行動の研究を進めている。専門はファン研究、文化社会学、理論社会学。
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