金沢大学の溝上敦教授、泉浩二講師らの共同研究グループは、男性の進行がん患者に男性ホルモンの一つ、テストステロンを投与することにより、がん悪液質を改善させる可能性があることを世界で初めて明らかにした。

 男性の進行がんでは約7割もの患者が低男性ホルモン(性腺機能低下)状態にあるとの報告がある。進行がん特有の状態(がん悪液質)に伴う、体重減少、筋力低下、うつ、炎症や疼痛の増悪等の症状は、性腺機能低下でも生じるため、進行がんの症状の一部は性腺機能低下が原因とみられるが、性腺機能低下とがん悪液質との関連については不明点が多い。

 そこで、金沢大学泌尿器科と同大学がんセンターで進行がんと診断された男性のうち、性腺機能低下を有する症例を男性ホルモン(テストステロンエナント酸エステル)投与群または無治療群にランダムに割り付け(投与群40人、無治療群41人)、QOL(生活の質)調査票と、がん悪液質の状態を反映する悪液質マーカーの変化等を検討した。

 その結果、QOL調査票については、投与群では無治療群と比較し概ねQOL改善の傾向がみられたが、特に「不幸感」の点数が有意に改善していた。また、投与群では無治療群と比較し、悪液質マーカーの一つであるTNF-α(腫瘍壊死因子α)の血中濃度に有意な改善が認められた。経時的変化では、悪液質マーカー(TNF-α、IGF-1)の悪化が無治療群で認められたが、投与群では認められなかった。

 今回の研究により、性腺機能低下ががん悪液質の一因であることが明らかになった。進行がん患者の一部の症状をテストステロン補充療法で改善させることが可能で、より大規模な試験で検証を行うことにより、新たな治療法となることが期待される。

論文情報:【Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle】Androgen replacement therapy for cancer-related symptoms in male: result ofprospective randomized trial (ARTFORM study)

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