生まれ持った身体とは別に、人工的に設計された余剰肢を付加することで身体機能の拡張を目指す「余剰肢ロボティクス」では、余剰肢ロボットシステムを自分の身体の一部のように捉えて抵抗なく扱えること、すなわち「身体化」できることが重要である。

 東京大学、慶應義塾大学、豊橋技術科学大学らの研究グループは共同で、バーチャルリアリティ(VR)空間において足先の動きと連動して動作する余剰肢ロボットアームシステムを開発した。装用者の主観的な感覚の変化を調べたところ、装用者は余剰肢であるロボットアームをあたかも新たな自分の身体の一部として知覚したと報告している。

 本研究で使用された余剰肢ロボットシステムは、装用者の身体に取り付けたセンサーで装用者の動きを捉え、VR空間のアバターとロボットアームの動きに反映する。装用者はヘッドマウントディスプレイにより第一人称視点でVR空間のロボットアームを視認しながら、ロボットアームでボールを触った際には触覚提示デバイスにより足先に反応を感じるしくみとなっている。

 VR空間において余剰肢ロボットアームでボールを触るという課題に取り組んだ16名の実験参加者(健常者)は、ロボットアームを自身の身体の一部であるかのように感じる感覚(身体所有感)、ロボットアームの動きが自身の企図に応じたものであると感じる感覚(行為主体感)、およびロボットアームの位置に自身の位置が重なって存在するように感じる感覚(自己位置感覚)を覚えたことが、アンケートから示されたとする。このことは、装用者に自分の腕が増えたという感覚(余剰肢感覚)が芽生え、身体化に成功した可能性を示唆する。

 また、視覚・触覚フィードバックに対する応答時間が余剰肢ロボットアームの装用前後で大きな変化を認めたことから、余剰肢ロボットアームの周囲に対する知覚の変化(近位空間の変化)が生じた可能性も示されたという。

 本研究成果は、人と協調して動く余剰肢ロボットシステムを設計する上での重要な知見となると考えられる。

論文情報:【Scientific Reports】Embodiment of supernumerary robotic limbs in virtual reality

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

豊橋技術科学大学

高度技術者・先導的人材の育成により、世界をリードする工科系大学をめざす

社会的多様性を尊重し、地域社会や産業界との連携を強化しながら、実用化研究や技術の社会実装化において世界トップクラスの工科系大学を目指しています。基幹産業を支える先端的技術分野と、持続的発展社会を支える先導的技術分野を2本の柱とし工学部・工学研究科を構成。実践教[…]

慶應義塾大学

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。