東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡准教授(バイオエンジニアリング専攻)と筑波大学医学医療系の岡本史樹講師(眼科学)は、JST課題達成型基礎研究(さきがけ)の一環として行った共同研究で、長期埋め込み可能な人工の硝子体の開発に成功した。長期埋め込み可能な人工の硝子体が開発されたのは、世界で初めて。

 ハイドロゲルは生体軟組織に似た組成を持っているため、医療材料として注目を集めている。特に、注射により生体内に埋植が可能で、生体内でゲル化するインジェクタブルゲルはさまざまな医用用途への応用が期待されている。ところが、生体内でゲル化を誘起する反応が周辺組織に刺激を与えることや、生体内において周囲の水を吸い込んで膨らみ、周辺組織を圧迫する等の問題があった。眼科領域においては、長期埋植が可能な人工硝子体が求められており、さまざまなハイドロゲルの応用研究がなされてきたが、上記の理由から成功例はこれまでなかった。また、ゲルの膨潤を制御する試み自体これまで、ほとんどなされていなかった。

 本研究グループは、新たな分子設計により、生体内に直接注入可能な、含水率のきわめて高い高分子ゲル材料を作製して動物モデルに用い、ハイドロゲルによる網膜剥離の長期にわたる治療を世界で初めて実現させた。これは、研究グループが作製した高分子ゲル材料が人工硝子体として有用であるということを示すもの。

 本研究成果は今後、網膜疾患を含む眼科系疾患の治療に役立つことが期待される。さらに将来的には、癒着防止剤、止血剤、再生医療用足場材料等への応用も期待されている。

大学ジャーナルオンライン編集部

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