実践女子大学では2021年に、社会連携推進室を設置。大学全体として社会連携に取り組んでおり、これまでに400※近い授業やプロジェクトが実施されてきた。その狙いと今後の取り組みについて、文学部国文学科教授・学長補佐・社会連携推進室 室長である深澤晶久教授に話を聞いた。
学生の主体性を引き出す社会連携プロジェクト
深澤教授:時代の先端を走っていると思っていたものが、あっという間に新しいものに取って代わられる。社会が加速度的に変化をする中で、情報感度の高さや広い視野・視点は欠かせないものになっています。
実践女子大学は、その名前のとおり、主体的に実践できる人材を育て社会に送り出すことを使命としており、そのために授業に限らず、様々な機会を提供してきました。しかし今後、学びと社会をつなぎ学生の社会的経験値を上げていくことが、さらに求められるようになっていくと考えており、創立者下田歌子が目指した「女性が社会を変える、世界を変える」ということが、時代のニーズに応えることでもあると実感しています。
本学が取り組む社会連携の中でも、特徴的なのは、初年次教育科目に位置づけている「実践プロジェクトa」という科目です。1つの授業で2つの企業から課題が提示されます。
2週間ほど前は、まだ高校生だった入学したばかりの学生が、学部学科の違う同級生とともに課題に取り組みます。課題は決して大学生用ということではなく、講師を担当される企業の方が日頃業務上課題と考えるテーマをぶつけてくれます。当然、絶対の正解はありません。学生は、与えられた課題を徹底的に調べ、提案を考えるのですが、幾度となく差し戻され、その度に頭を悩ませます。ある企業の新入社員研修を考える課題が提示されましたが、学生はどうしても、How、すなわち方法論に陥りがちで、研修計画のメニュー作りに終始してしまいます。その度に担当者から、本質的になぜそれが必要なのか?すなわちWhyを問われるという繰り返し。学生にとって大変な取り組みだと思いますが、この授業を受けた学生の成長は本当に目覚ましいものがあります。
それは学業の成績に限ったことではなく、正課外の様々な活動にも主体的に参加しチャンレジするようになるのです。そのような姿を見ると、「鉄は熱いうちに打て」の言葉にあるように、初年次から社会連携の授業を経験することで、学生は自主的に視野を広く社会に向けるための思考力や行動力を身につける。学びとは、授業で学んだことを社会で実践し、課題を実感して再びキャンパスで学ぶ。このインプットとアウトプットの繰り返しの中で深まっていくものだと実感しています。
また、私が担当している正課外の「実践ウェルビーイングプロジェクト(JWP)」という活動では、SDGsの「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」に含まれる「Well-Being(よりよく生きる)」ということをテーマに様々な企業とのコラボレーションも実現しています。
先日、東急株式会社が発刊する「SALUS Well-being(サルース ウェルビーイング)」誌と協働し三世代による「人生100年時代のウェルビーイングを語る世代を超えたワークショップ」を渋谷キャンパスで実施しました。世代を超えた対話によって、学生にとっても参加された親世代、祖父母世代のご家族にとっても様々な気づきのあったイベントとなりました。ウェルビーイングを考えることは、さらに長くなる人生をよりよく生きていくために非常に大きなテーマですが、まさに社会とのつながりを考えることに繋がります。全く強制されるものではない自主的なコミュニティですが、JWPでしか体験できないプログラムに共感してくれた学生が、学部学科学年の壁を超えて50名が活動する規模になりました。
社会連携推進室が目指すもの
実践女子大学では、渋谷キャンパスのみならず、日野キャンパスでも様々なプロジェクトを立ち上げて展開しています。
生活科学部現代生活学科の須賀由紀子教授の下で、地域自立型社会の課題に取り組んでいる地域・生活文化ゼミ。2015年、新潟県・越後妻有の広大な里山を舞台に開催される「大地の芸術祭」に参加したのをきっかけに、過疎高齢化・人口減少が著しい中山間地域の一つである布川(新潟県十日町市松之山布川地区)との交流を開始しました。棚田地域における多様な主体との連携や協力を促進し、棚田地域の振興に貢献したとして感謝状の贈呈を受けました。
棚田地域の活性化や、棚田の有する多面的な機能に対する理解促進を図ることを目的として、2023年3月、農林水産大臣が全国の271の棚田を「つなぐ棚田遺産」に認定。そして、棚田地域における多様な主体との連携や協力を促進することを目的として、棚田地域の振興等に貢献した企業・大学等を表彰するのが「つなぐ棚田遺産」感謝状の取り組みです。
社会連携推進室としては、今後、都市部にある渋谷キャンパスと、地域とつながりの深い日野キャンパスとの個性を融合し、学部学科を横断して学びを連携させながら、その内容をもっと幅広く充実したものにして学生に提供していけたらと考えています。最終的に目指すものは、1コマごとの連携から、大学間の包括連携協定による中長期的な研究まで、多角的に行う取り組みに、本学の全ての学生が関わる姿です。
私は常々、「大学の価値は卒業生が決める」と学生たちに伝えてまいりました。創立125年を迎える今、改めて原点に立ち返り、下田歌子先生が何を目指して実践女子大学を創立したのか。その想いを全学における取り組みを通して学生に伝え、社会に出て実践し、再び母校に戻り還元する。そういうサイクルができることで、実践女子大学で学ぶことの誇りをより感じてもらえるようにしていきたいと思っています。
実践女子大学 文学部 国文学科 教授、学長補佐、社会連携推進室長
深澤 晶久
1957年東京生まれ、慶應義塾大学卒業後、㈱資生堂に入社。営業、マーケティング、商品開発、ならびに労働組合中央執行委員長を歴任後、2009年より人事部人材開発室長、2011年からはキャリアデザインセンター長も兼務。8年間にわたって、採用・研修、キャリアデザインなどの責任者として資生堂グループの人材育成全般に関わる。
2014年より実践女子大学大学教育研究センター特任教授、2018年より文学部国文学科教授として、全学のキャリア教育を担当する。現在は、学長補佐、社会連携推進室長として、実践女子大学の社会連携全般の推進を行う。
※社会連携推進室設置以前も含む