2025年のクリスマス、玉川大学の正門、大学教育棟が美しい映像と音楽、そして香りにつつまれた。光でつなぐ、玉川の学び「2025 Winter Illumination」と題したイベントには、学生はもちろん、近隣の多くの人が集まり、そのプログラムの中で、【香響曲】―Scentphony―と題して、工・農・芸・リベラルアーツ学部の学生による学部横断プロジェクトによる香りと音楽を融合した幻想的で大規模なプロジェクションマッピングが披露された。

 

地域住民や小田急線の利用者が目を見張ったプロジェクションマッピング

 玉川大学では、“異分野融合の学びを育む場”をコンセプトとして、工学部・農学部・芸術学部が融合した教育を進めていく「ESTEAM教育」の拠点「STREAM Hall 2019」が2020年春に誕生。これに合わせてスタートした学部横断授業として、「デザインシンキング(課題解決型のプロジェクト学修)」を実践する「工農芸融合価値創出プロジェクト」というPBL授業※が開講されている。今回のプロジェクションマッピング【香響曲】―Scentphony―は、この授業で2024年度に発表された企画の一つがイベントプログラムとして実現したものだ。
※PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)

 全学科共通で履修できるUS科目(ユニバーシティ・スタンダード科目)の中でも、複合領域研究として「工農芸融合価値創出プロジェクト」の授業は、2019年度よりスタート。当初は工学部、農学部、芸術学部の3学部の2~4年生を対象としていたが、2021年度からはリベラルアーツ学部が加わり、現在は観光学部の学生も履修できる。今後は玉川大学の全8学部の学生が履修できるようになる予定だ。学部・専門性の枠を超えた「共創の教育」の実践の場、そしてワンキャンパスの総合大学ならではのダイナミックな学びが体験できる魅力的な内容が展開されている。

 2024年度は「⾹り」をテーマに玉川大学のブランド価値向上の施策を考えた。それぞれ異なる学部の4名で構成されるグループをつくり、全15回の授業の前半は、「デザイン・シンキング」「アイデア発想法」「箱根自然観察林」「植物の多様性」「香りと脳科学」「人工知能と社会」などのオムニバス講義で、新たな知見を得て多角的な視野を養い、後半はそれまでに学んだことをベースにグループごとでディスカッション。課題解決に向けてアイデアを練り上げ、最後にプレゼンテーションを行った。

 

アイデアをかたちに。夢物語だと思っていたことが現実に

 【香響曲】―Scentphony― を企画したのは、2024年度のチーム・ゴールデンオーシャンの4名。メンバーの一人である農学部生産農学科の喜多川正計さんは、こう振り返る。

喜多川さん:実現できるかどうかは一旦横に置いて、夢物語的に出てきたアイデアをどんどん付箋に貼りだして、それぞれ考えや、ちょっとしたこだわり、興味の有無など4人の中で話し合いながらまとめていきました。
 授業の最後にあったプレゼンテーションでは、プロジェクションマッピングで使用する映像と音楽はイメージとしてフリー素材から選定しましたが、「香り」は一番のテーマだったので、香りを振りまく小さなドローンを飛ばすことにしました。ドローンは、下に向かって風を飛ばして上昇するので、ドローン自体に香りが付いていればドローンが来た下の人たちには香りが届くのではないかと考えました。
 ただ、実際のイベントで使用するには、安全性を検証するためにさらに時間が必要だったため、今回はドローンの使用は見送り屋外用の大型ディフューザーに変更しました。

 企画を実現するにはやはり様々な課題を乗り越えてきたことがわかる。

 工学部マネジメントサイエンス学科 小酒井正和教授はこの授業、そしてイベントのオーガナイザーとして学生たちを見守ってきた。

 小酒井教授:今回の企画の実現の目処がついたのは、授業が終わって半年以上経つ7月末でした。そこから大急ぎでメンバーを再結成し『どうやったら最高のものができるか?』を考えて、新たに芸術学部で映像を専攻する学生にも加わってもらい映像を制作しました。
 残念ながら、学生さんが企画した全てを実現できるわけではありませんし、もっと良くできることもあります。実現できるかどうかは、次のステップに進めるだけの企画の資質や、素材のよさのようなものに加えて、予算面や時間的に段取りや調整ができるかどうかなどもかかわってきます。
 私の仕事は、学生が考えた素晴らしいプランをどうやったら実現可能なものにできるか、様々な人々の力を借りながら実際に道筋をつけていくことだと考えています。この工農芸価値創出プロジェクトは、今までとは違う玉川大学の新しい風景を、学生と一緒に私たち教員も含めてみんなで創っていきましょうという授業なんです。さまざまな授業があると思いますが、やはり、一番面白いのは学校の中で『あったらいいな』と思うような価値あることやモノを、自身で打ち出し創っていくことなんじゃないでしょうか。
工学部マネジメントサイエンス学科 小酒井正和教授
 
 今回、映像班として、大型のプロジェクションマッピングの映像制作を手掛けたのは、芸術学部アート・デザイン学科の望月康平さんだ。

望月さん:プロジェクションマッピングの映像は、特性上、実際に投影する画角が決まってからでないと調整ができないので、土台はつくっておいて、前日に設営が終わってから、7階建ての高さ約30m大学教育棟の建物のかたちにあわせて映像を調整していきました。

 イベントに向けて、12月の寒空の中、野外で遅くまで調整にあたった。

望月さん:こうした駅前や小田急線の車内からも見えるような大きなイベントのプロジェクションマッピングの制作は、大変でしたがやりがいもありました。中でも、著作権上の問題で、通常の映像用音楽と吹奏楽部の生演奏用の音楽で使用する音楽を2種類用意し、いずれの音楽でも同じ映像を流せるように作り込んでいくのが一番大変でしたね。それでもイベントでの発表という目標もでき現場のリアルを体験しながら、自分自身のスキルアップを図れたと思います。イベント初日は吹奏楽の生演奏とのコラボレーションも行ったのですが、演奏する玉川学園吹奏楽部の指揮者も映像にあうように頑張ってくれて、素晴らしいパフォーマンスとなりました。

 苦労はありながらも、成長と充実した経験をした様子が伝わってきた。

 今回のイベントは「空間演出を総合的にプロデュースするプロフェッショナル集団」である東洋メディアリンクス株式会社による機材協力を得て実施された、産学連携の取り組みでもある。プロジェクションマッピングの一部分の映像制作も協力してもらったが、望月さんたち学生が作り上げた映像はプロが制作したものにも引けを取らないくらい、幻想的で心温まる素敵なストーリーの映像で素晴らしい出来だった。

 企画班として参加したのはリベラルアーツ学部リベラルアーツ学科の高仲恕太郎さんだ。

 高仲さん:私は何にでも好奇心が強くて、いろいろな学部の人たちと一緒にプロジェクトを進めたら新しい関係性もできて、すごく面白そうだなと思ってこの授業を履修しました。授業やイベントまでの準備では、これまで他の授業で学んだことや自分ができることを活かして、『違う専門領域同士をつなげる』ということを自分の役割として意識してやっていました。

 喜多川さん:私も、基本的には高仲さんと同じように、芸術学部や工学部など他学部の人たちといろいろなことが学べるのが魅力的で履修しました。また小酒井先生は、とてもマネジメントに長けた方で、学生の興味や能力を引き出すための様々なアイデアを持っていたり、実現のために必要な幅広い学内外の人脈を持っていらっしゃって、おかげで夢物語だと思っていたプレゼンテーションが本当に現実のものになりました。
写真左から、高仲恕太郎さん、喜多川正計さん、望月康平さん

 

玉川大学が創り出す新しい価値創造のかたち

高仲さん:玉川大学のクリスマスは地域の方にも親しまれています。以前は大きなツリーがあってクリスマスになると点灯し、市民がそこに集まるという有名な伝統的なイベントがあったんですが、今回のプロジェクションマッピングを投影した校舎「大学教育棟2014」の建設に伴ってその姿が消えていました。今回の企画は、そのツリーを復活させるという意味もあったんです。
 今回の【香響曲】もまだまだ課題はありますが、例えば、子どもたちが帰り道にここを通った時や地域の人々がこの校舎を見た時にこのプロジェクションマッピングのことを思い出してくれたり、香りによってこの音楽や映像、そして玉川大学のことを思い出してもらえたら、この工農芸融合価値創出プロジェクトのテーマでもある『新たな価値の創造』になっているのではないかなと思います。

 企画班のゴールデンオーシャンのメンバーは学年もそれぞれ異なり、プロジェクションマッピングのプロジェクト発足時には卒業していて参加できなかったメンバーもいたが、玉川学園吹奏楽部による生演奏コラボ当日は久しぶりに全員が集まり、そのパフォーマンスを見守った。今後、以前のツリーに代わる新たな玉川大学の冬の風物詩として地域のみなさんに親しんでもらえるようにもっとブラッシュアップできたらと、小酒井教授と学生のみなさんはその意欲を見せた。

 当日の様子は、玉川大学のYouTubeチャンネルで見ることができる。

【YouTube】玉川大学 STREAM Style
https://www.youtube.com/@admin_streamstyle

玉川大学

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