東京大学の浅谷公威特任准教授らの研究グループは、国際政府組織(IGOs)が政策文書で引用する論文について、著者レベルでの集中構造を明らかにした。
IPCC、WHO、UNESCOなどに代表されるIGOsは、大量の科学的知見をエビデンスとしながら、各国の方針や国際合意の土台となる政策文書を発行している。しかし、研究者が生み出す膨大な知見の中から、IGOsがどのように論文を選択しているのか、すなわち科学的知見がどのようなパスやメカニズムでIGOsに伝わるのかについては、これまで十分に明らかとなっていなかった。
そこで本研究グループは、2015~2023年にIGOsの政策文書で引用された約23万件の論文を著者レベルで分析した。その結果、IGOsの政策文書に引用された論文の著者は、少数の研究者に偏る傾向があることが判明した。また、この集中傾向は、人工知能などの新興分野よりも、気候変動・環境保全などの成熟分野で特に顕著だった。
さらに、IGO引用論文の累積30%を占める著者群をHIC-Sci(Highly IGO-Cited Scientists)と定義して分析したところ、研究者同士の共著関係やIGO委員との兼務など、HIC-Sci内で研究ネットワークとIGOsとの人的な重なり合いも確認された。気候変動分野では、300人のHIC-Sciのうち93人(31%)がIPCC報告書の執筆者を兼ねていたという。また、HIC-Sciが関与した論文の学術知ほど、より早く、より広範にIGOsのエビデンスとして活用される傾向も確認された。
加えて、この偏りの傾向は、分析期間を三分割しても大きく変化しておらず、IPCCのガバナンス改革やWHOの利益相反ガイドライン整備など、IGOsによるエビデンス多様化へ向けた取り組みの中でも、長期的に維持されていることが示された。
本研究成果は、「誰の知識がIGOsに選択・活用されているのか」を可視化し、その集中のメカニズムを明らかにしたものである。国別で見ると、IGO被引用率は欧米で高く、日本を含むアジアやアフリカでは低い傾向がある。研究グループは、IGO被引用率の地域差について、国際政策形成における「助言過程の正当性」の観点から課題があるとし、さらなる検討が必要だとしている。
