話題となった学力型年内入試もすでに一部の私大では合格発表も終わっていますが、ピークとなるのはこれから11月末にかけてとなります。年内入試で合格大学を確保して、一般選抜に臨む生徒は例年より増えると思います。その一般選抜では学部系統別の人気によって、倍率などの競争環境が変わりますので、毎年、どんな学部系統に人気が集まるのかは気になるところです。河合塾の情報サイトによると女子の理系シフトが特徴の1つとしてあげられています。また、人気大学の学部新設が系統全体に影響することも指摘されています。そんな中で、10月3日に文科省から私大の入学金に関して新たな情報発信がありました。この問題は当初の想定よりも長引きそうな気配です。
国公立大、私立大ともに法・経済系の人気が高い
教育関係者のための情報サイト河合塾「Kei-Net Plus」では、入試の最新動向の解説記事「大学入試環境の変化と2026年度入試最新動向」が公開されています。ここでは2026年度入試における入試環境の変化や特徴などがコンパクトにまとめられており、加えて模擬試験の志望者の動きから、入試動向なども予想されています。また、志望者数の前年比較から、どの学部系統に人気が集まっているのか、国公立大学と私立大学に分けて解説されています。
記事中のグラフを見ると一目瞭然なのですが、国公立大学では「法・政治学」、「経済・経営・商学」、「歯学」、「芸術・スポーツ科学」の志望者数の伸びが全体を上回っています。「芸術・スポーツ科学」を除けば、前年入試と同じ傾向となっています。解説では「法・政治学」は女子志望者数の増加が影響しているとしています。これまでも受験人口が増えると「法・政治学」、「経済・経営・商学」の志望者は増えていたのですが、女子志望者がこれほど大きく動いているのは近年の特徴と言えるでしょう。
私立大学のグラフでも「法・政治学」、「経済・経営・商学」の伸びが目立ちます。国公立大学が女子志望者数の増加で「法・政治学」が伸びていることを考えると私立大学でも同様の理由によるものと思われます。また、「工学」、「農学」が全体の伸びを上回っています。いわゆる理系人気なのですが、ここでも女子志望者数の増加が影響しており、「女子の理工系への志望シフト」が鮮明だと解説されています。
また、「総合・環境・情報・人間」の学際系・複合系の学部系統の志望者数も伸びていますが、データサイエンスに代表される「情報」分野は昨年並みの志望者数にとどまっており、この中で伸びているのは「環境」分野で、それには立教大学環境学部の新設が大きく影響していると説明されています。立教大学の新学部を志望する受験生が同系統の他大学を併願することが考えられますので、他大学も含めた「環境学」系統全体が活況となることも予想されます。
【Kei-Net Plus】入試・教育トピックス「大学入試環境の変化と2026年度入試最新動向」(25/10/10)
https://www.keinet.ne.jp/teacher/exam/topic/
女子の理工系への志望シフトだけでは定員充足は難しい?
「女子の理工系への志望シフト」で言えば、確かに理工系や農学系など医療系以外の理系分野を目指す女子受験生は年々増えています。また、各大学ではいわゆる「女子枠」入試が増えており、実際に女子入学者数も増加していますので、理系学部では女子の動向が鍵になるようにも見えます。そこで学校基本調査(関係学科別 大学入学状況)をもとに、「工学」入学者数についてのグラフを作成しました<図1>。これは工学系の入学者数の推移を2000年からプロットしたグラフです。確定値を使用していますので、現時点で最新の数字は2024年度の入学者数になります。男子を実線、女子を破線にしていますが、グラフを見ると男女でボリューム感が全く異なります。

確かに女子入学者数は増加していますが、女子が比較的多いとされる「土木建築」、「応用化学」で見ても、男子との人数差は大きく、最初はグラフの作成ミスかと思ってデータを二度見しました。おそらくバイオ系やデザイン系の学科で「工学」以外の区分に集計されているものもあるとは思いますが、工学系の定員充足を考えると、「女子枠」なども含めて、どのような施策にリソースをかけるのかは慎重に考えることが必要かもしれません。理系学部を増やす政策によって、女子大でも理工系学部を新設する動きが全国で見られますが、学校基本調査だけをみると、一定の志願者数を集めることはできても実際に女子の入学者を十分に得るのはかなりのチャレンジにも見えてきます。
さらに、女子大に関連して言うと、理系分野に加えて、「経済・経営・商学」系の学部を新設する女子大も増えていますが、「法・政治学」や「社会学」も含む「社会科学」合計の女子入学者数を見ると、実は男子の「工学」合計を超える規模にまでなっています<図2>。学校基本調査では「社会科学」の約半数が「商学・経済学」ですので理系よりも多くの入学者数を得られる可能性がありそうです。

また、近年は栄養系の学部学科を農学系寄りの学部に改組する動きも見られます。志願者数で見ると農学系は女子比率も高く、学生募集にとって有望な分野に見えますが、「農学」合計の女子入学者数は「芸術」合計を下回っています<図3>。もちろん、理工農でも学問分野によっては、各系統の境界線上の分野もありますので、学校基本調査の区分だけで判断はできないと思いますが、往々にして志願者数を根拠に市場規模を考えるケースが多いため、実需も併せて考えることは必要なことでしょう。

入学金返還問題で授業料が値上げされる?
ところで、今年はもう終息した話題だと思っていた、私立大学の入学金返還問題(入学金二重払いの問題)ですが、10月3日に文部科学省から新たな情報発信がありました。6月に通知された「私立大学における入学料に係る学生の負担軽減等について(通知)」では、私立大学に対して入学辞退者へ授業料だけでなく、入学金も返還するよう求めていましたが、その後、これまでに大学などから寄せられた質問への回答という形で、改めて通知についての考え方を解説したサイトが公開されました。
この問題は、当初、一般選抜における私大併願の問題と思われていましたが、このサイトによると総・推入試(総合型選抜・学校推薦型選抜)も対象としています。説明文で「併願が可能な総合型選抜等を実施する大学が増える等、一般選抜以前の受験機会が拡大している」と言及するなど、今年から首都圏でも拡大している学力型年内入試がこの通知の発端となっているようにも読めます。ただ、学力型年内入試が発端だったとしても、通知に従えば、学力型年内入試を実施していない、国公立大学との併願者が多い難関私立大学は、国公立大学に合格して入学を辞退する全ての受験生に入学金を返還しなければならないことになります。少々言い難いところですが、これらの大学では、これまでは収入として見込んでいた一定の金額が消失します。
規模の大きな私立大学の場合、一般選抜の合格者数が10,000人を超えることも普通です。仮に入学手続きの時に受験生が納める費用を20万円として、一般選抜の合格者の約半数が入学手続き後に他大学に合格して入学辞退するとして試算すると、合格者数10,000人の場合、20万円×5,000人=10億円となります。この規模の私立大学となると授業料などの収入が200億円を超えていますので、大学関係者以外の方が見れば、何とかなるのではないかと思うのでしょうが、物価高や光熱費の高騰で大学は、国公立大学も含めて財政的に相当疲弊しています。入学金減収となった分は、授業料の値上げとなって学生に戻ってこないとも限りませんので、今後について一抹の不安が残ります。
ところで、今回の通知は主に大学法人、つまり私立大学に対して行われていますが、今後は専門学校への進学や私立中学・高校受験でも同じような対応が求められるのでしょうか。
【文部科学省】事務連絡・通知(私立学校・学校法人に関するもの)
「私立大学における入学料に係る学生の負担軽減等について(通知)」(令和7年6月26日)
「私立大学における入学料に係る学生の負担軽減等について」(令和7年6月26日付文部科学省高等教育局私学部長通知)の考え方等について(令和7年10月3日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/007/1420538_00005.htm