社会人向けの共学大学院・東洋英和女学院大学大学院では現役幼稚園教諭も数多く学んでいる。人間科学研究科幼児教育・発達臨床学領域の2022年度修了生、篠原暁子さんもそのひとりだ。なぜ現場で働きながら、大学院に進むことを選んだのだろうか。幼児教育を学び続ける意義や、大学院生活で印象的だった出来事を伺った。

 

現場で感じた「わからない」に向き合うために

 現役の幼稚園教諭である篠原さん。意外にも音楽大学出身で、もともとは声楽やピアノを学ぶために入学したという。幼児教育に興味を持ったきっかけは、授業で学んだリトミックと、教育実習での出来事だった。

「子どもたちと一緒に遊んだり、歌い合ったりした瞬間に私の心が動いて。こんなに心が動かされる瞬間があるのなら一度幼稚園で働いてみよう、と思いました。」

 幼稚園で働き始めて10年ほど経った頃からは、リトミック教室で小学生コースのボランティアアシスタントも始めた。次第に幼児教育と小学校教育のつながりを学ぶ必要性を感じたため、通信課程のある大学で小学校の教員免許を取得。知識が増えた一方で、現場で実践に移す難しさも募っていった。

「学びを現場でどう活かしていけばいいのか、だんだんと疑問を抱くようになりました。むしろ社会人になってからのほうが、疑問に思うことが増えましたね。だからこそ、もう一度幼児教育についてきちんと学ぼうと大学院を調べ始めて。せっかくなら働きながら学べるところがいいと思い、東洋英和女学院大学大学院に入学しました。」

 同大学院の授業は主に夜間と土曜日に開講されているため、仕事との両立もしやすかったという。

「仕事のあとに大学院に行くのはたしかに大変ですが、疲労感は気にならなくて。疲れた状態で大学院に行っても、授業が始まると違うエネルギーが湧き出てくるのでとても集中できました。また、私が通っていた頃はコロナ禍の影響で一部の授業がオンラインになったんです。とくに幼稚園の行事前はオンラインで授業に参加できて助かりました。」

学んだ内容はすぐ実践。研究と現場の近さが魅力

 人間科学研究科幼児教育・発達臨床学領域では、篠原さんのような幼稚園教諭のほか、看護師、児童養護施設の職員など、子どもに関わるさまざまな職業の社会人が学んでいる。幅広い年代や、別の職場で働く人の意見を聞けたことも、大きな学びになったそうだ。

「私はずっと同じ幼稚園で働いているので、ほかの園のやり方や考え方に触れたことがありませんでした。大学院では園の多様な方針なども知れましたし、視野が広がってよかったです。」

 すでに幼児教育を学び、現場で実践している社会人が大学院で学ぶ意義とはなんだろうか。篠原さんは次のように語った。

「授業で知ったことを、次の日にもう園で実践できることです。学びをすぐに還元できる、魅力的な環境だと思います。」

 篠原さんも、指導教授である西洋子先生の授業で体験した身体表現を、職場でさっそく実践した。新聞紙や影絵などを活用して子どもたちとコミュニケーションをとろうとしたが、一度で成功したわけではなかった。

「西先生はファシリテーションが上手なので、初めて取り組む身体表現であっても、参加者はみんな自然と動けます。でも私が実践すると、子どもたちに『ああでもない』『こうでもない』と指示してしまって。その課題を翌週の授業で打ち明けたところ、改善策のフィードバックをいただけました。」

 授業と現場を行き来しながら、幼児教育への理解を深め、自分自身も成長できる。現役幼稚園教諭にとって魅力的な環境だといえるのではないだろうか。

学び続ける姿勢が、保護者の励みにもなった

 「子どもと保育者と音楽の相関関係」をテーマに、修士論文を書き上げた篠原さん。卒業後も学びを続けたいと、研究生としてさらに1年間在籍した。その後出産を機に、産休と育休を取得。現在も子育てをしながら、可能な範囲で研究を続けている。

「今は我が子と私の音楽的なやりとりを記録して、乳児と母親のあいだに生まれる音楽的コミュニケーションについて研究を少しずつ進めています。ライフステージは変わりましたが、むしろ研究はどんどん広がっていますね。
育休から復帰したあとは、研究結果や進捗を職場にも還元したいです。これから保育者をめざす方や、新任の先生にも幼児教育の楽しさを伝えたいと考えています。」

 大学院で身についたのは幼児教育の知識だけではない。他分野の授業を履修して視野を広げたり、授業中の質問をきっかけに教員とディスカッションしたりする経験も得られた。さらに子どもたちへの向き合い方や、リトミックの実践に対する姿勢にも変化があったという。

「今までは感覚に頼って実践するときもありました。でも今は何をするときにも、データや実績、論文などを根拠にできるようになって。保護者の方も、私が『なんとなくそうしました』と言うよりも、きちんと根拠を提示したほうが安心できると思います。データに基づいて語る、という点は大学院で身についた基盤です。」

 篠原さんの学び続ける姿勢も、子どもたちの保護者に影響を与えている。

「保護者の方との個人面談では『子育てへの自信がない』という相談も受けます。そんなとき『私も日々勉強の毎日で、まだ幼児教育を学んでいますよ』と言うと、親近感を持ってくれるんです。私のライフスタイルそのものも、現場に還元されています。」

「現場の先生は絶対に行ったほうがいい」大学院進学を勧める理由

 最後に篠原さんは、「現場の先生は絶対に大学院に行った方がいいと思います」と力強く語った。

「幼児教育の現場を一度経験してから進学すると、学びが200倍にも300倍にもなると思います。大学院には幅広い年代の方がいますし、何歳から学び始めても遅くありません。
大学院進学を不安に感じる人もいるかもしれませんが、行ってから考えればいい、と私は思っていて。たとえば幼稚園の行事と重なって授業を休まなければいけないときだって、先生方はわかってくださいます。現場をよく知る方々とともに学べるので、安心して大学院に来てほしいです。」

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