東京科学大学の武部貴則教授、名古屋大学医学部附属病院の藤井祐病院准教授らの研究チームは、「腸換気法」に用いる液体のヒトへの単回経肛門投与が、良好な安全性・忍容性を持つことを、世界で初めて実施した臨床第1相試験で確認した。

 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重症呼吸不全は、肺でのガス交換機能が失われる致死率の高い病態。現在の標準治療は人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)だが、肺への負担や合併症のリスクが課題だ。肺を休ませながら全身に酸素を供給できる新しい治療法の開発が求められていた。

 研究チームはこれまで、一部の水生生物が持つ「腸呼吸」の能力を模倣し、哺乳類でも腸を介して酸素を供給する「腸換気法」が可能であることを報告してきた。今回、20~45歳の健康成人男性27名に対し、酸素を多量に溶かせるフッ素系液体のパーフルオロデカリン(PFD)を、酸素を含めずに、段階的に増量して投与する臨床第1相試験(First-in-Human試験)を実施し、その安全性と忍容性を評価した。

 その結果、重篤な有害事象や投与量を制限するような毒性は一切認めなかった。高用量群でみられた腹部膨満感や腹痛などの症状は軽度・一過性であり、特別な処置を要さず自然に回復した。

 また、投与後の血液検査では、肝機能・腎機能を含む全項目で異常は認めず、血液中からPFDは検出されなかった。これはPFDが体内に吸収されずに腸内で安全に機能することを示唆している。

 今回の成果は「お尻から呼吸する」という革新的な医療コンセプトの、ヒトへの臨床応用への重要な一歩とし、今後は酸素を豊富に溶かしたPFDを用いた臨床試験を通じて、重症呼吸不全の治療法開発が期待されるとしている。

論文情報:【Med】Safety and Tolerability of Intrarectal Perfluorodecalin for Enteral Ventilation in a First-in-Human Trial

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