北海道大学、大阪大学、英国クイーンズ大学の国際共同研究グループは、精子形成に関わる生殖細胞のみが発光するノックイン(遺伝子改変)マウスの開発に成功した。
繁殖能力や胎児発育への悪影響を評価する生殖毒性試験は、新薬開発や環境リスク評価において不可欠なプロセスである。しかし、従来の手法では多数のマウスを用いた交配や解剖が必要であり、結果が得られるまでの時間と労力、動物個体数のコストが大きいことが課題だった。
こうした背景のもと、研究グループは、ルシフェリン投与によって生殖細胞(精子など)が発光する性質をもつ「精子形成可視化マウス」の開発に成功した。雄マウスの精子の減数分裂期に特異的に発現するタンパク質「Acrosin(Acr)」に、ルシフェリンに反応して光を出す発光タンパク質「Luciferase(Luc)」をノックインするという遺伝子工学的アプローチを用いることで、体外から生殖細胞の発光を非侵襲的に観察することを可能にした。
さらに、このマウス(Acr-Lucノックインマウス)は、1年以上にわたって安定した発光を維持することが確認された。これにより、従来法では困難だった、精子形成の経時的変化を、同一個体で長期間追跡できるという革新的な評価手法が実現した。
Acr-Lucノックインマウスを用いて放射線照射に対する生殖細胞の応答を検証したところ、照射後4週で発光がほぼ消失し、精子形成が停止することが確認された。照射線量が5Gyの群では8~12週にかけて発光が再び認められ、精子形成が回復した一方、10Gyの群では観察期間を通じて発光が回復せず、不可逆的な造精機能障害に至ることが示唆された。
これらの結果から、Acr-Lucノックインマウスは、従来の交配試験や解剖に依存しない生殖毒性評価を可能とする、革新的な前臨床プラットフォームとして有望である。
本マウスモデルは、生殖毒性試験の効率化にとどまらず、創薬研究、環境曝露評価、がん治療後の男性不妊リスク評価など、多様な分野での応用が期待される。また、使用動物数の削減にもつながることから、これらの分野で取組みが遅れていた「動物実験の原則3Rs(Replacement、Reduction、Refinement)」の推進に寄与する基盤技術となるとしている。


