海洋研究開発機構、東京大学、水産研究・教育機構の研究者らは、魚の眼球中の水晶体の窒素同位体比分析を行うことで「魚の生活史」を紐解く手法を開発した。

 広大な海洋空間を三次元的に長距離移動する魚が「いつ、どの海にいたのか」を把握するのは容易なことではない。一方、フェニルアラニンというアミノ酸は、魚の体内では合成できず、摂餌でしか得ることができないため、その窒素同位体比の分析は、採餌履歴の推定に役立つ。また、海域ごとに特有の窒素同位体比が存在するため、魚の分布海域の識別にも有用である。

 特に、魚の眼球中の水晶体は、魚が卵の中にいる頃から形成が始まり、成長とともに木の年輪のように付加的に層を形成し、それが一生を通して保持される。水晶体を玉ねぎの皮のように剥いて成長層ごとに採取し、蓄積されているフェニルアラニンの窒素同位体比を分析すれば、魚の生活史を時系列的に明らかにできると考えたのが本研究である。

 今回、この手法を用いて、三陸沖で採取された約1歳のマサバの稚魚期からの生活史を解読することを試みた。その結果、計34層のサンプルが得られ、時系列窒素同位体比分析により、仔稚魚期を窒素同位体比の低い亜熱帯海域(伊豆半島沖付近)で過ごし、成長と共に窒素同位体比の高い亜寒帯海域(三陸沖方面)へ移動するとされるマサバの典型的な回遊ルートを復元することができたという。

 本手法は、世界で最も高い時間解像度で魚の移動や採餌の履歴などの生態学的情報を得ることのできる画期的なツールとなるとみられる。水晶体を持つ多くの海洋生物に適用可能なため、今後の海洋生態学的研究や水産資源管理において重要な役割を果たすことが期待される。

論文情報:【Frontiers in Marine science】Compound-specific nitrogen isotope analysis of amino acids in eye lenses as a new tool to reconstruct the geographic and trophic histories of fish

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