スピンがらせん状に配列した「らせん磁性体」は、スピンのねじれ方を情報として活用した新たなスピントロニクス材料となることが期待されている。しかし、らせん磁性を示す物質は希有で、スピントロニクス材料として古くから研究されてきたペロブスカイト型遷移金属酸化物であっても、その報告例は限られていた。

 今回、東京大学・大阪大学らの研究グループは、立方晶ペロブスカイト型構造を持つコバルト酸化物に着目。同じ構造でらせん磁性を持つ鉄酸化物が、鉄と酸素の結合長を引き伸ばすとスピン配列のねじれ方が大きく変化することが知られているため、同様にコバルトと酸素の結合長を引き伸ばして、新奇磁性相を探索することを目指した。

 超高圧酸化処理により、らせん磁性に必要と考えられるコバルト-酸素間の強い結合を保ちながら、元素置換で結合長を引き延ばしたペロブスカイト型コバルト酸化物の大型単結晶を合成。得られた単結晶に対して磁化測定を行い、コバルト-酸素間の結合長をわずか1%程度広げるだけで、強磁性相が新たな磁性相へと変化することを見出した。さらに、実験と理論計算から、この新たな磁性相がらせん磁性相であることを確認した。

 これにより、立方晶ペロブスカイトのようにシンプルな結晶構造を持つ酸化物であっても、遷移金属と酸素の間の強い結合を制御すればらせん磁性が生じうることが、世界で初めて実証された。

 本成果は、酸化物らせん磁性体の新規開拓につながる新たな指針を与えるものであると同時に、結晶格子の増大による強磁性-らせん磁性転移という磁性スイッチングは、新たな圧力センサーや磁気アクチュエーターへの応用につながることが期待されている。

論文情報:【Physical Review Materials】Negative-pressure-induced helimagnetism in ferromagnetic cubic perovskites Sr1−xBaxCoO3

東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

大阪大学

一人ひとりの「真価」を、阪大の「進化」に。地域に生き世界に伸びる大学へ

大阪大学は、11学部23学科を有する研究型総合大学。1931年の創設以来、「地域に生き世界に伸びる」をモットーに、高度な教育研究力、教職員の和の力、そして伝統の重みと大阪という地の利が織りなす卓越した「基盤」と「力」を有しています。これらの優れた潜在力を活かし[…]

東北大学

イノベーションの源泉となる優れた研究成果を創出し、次世代を担う有為な人材を育成

東北大学は、開学以来の「研究第一主義」の伝統、「門戸開放」の理念及び「実学尊重」の精神を基に、豊かな教養と人間性を持ち、人間・社会や自然の事象に対して「科学する心」を持って知的探究を行うような行動力のある人材、国際的視野に立ち多様な分野で専門性を発揮して指導的[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。