慶應義塾大学と京都工芸繊維大学の研究グループは、ポリエチレンテレフタレート(PET)分解酵素の分解速度を100倍以上に向上させる手法を開発した。
PETは、ペットボトルや衣服等の素材として世界中で利用されているが、環境中で分解されることなく堆積するため環境問題となっており、その解決が急務とされている。
本研究グループはこれまで、PETを栄養源として生育する微生物を発見し、世界に先駆けてPETに高い特異性を示す酵素PETaseを同定した。しかし、その活性は低く、未だ実用化に耐えうるものではなかった。
PETaseの活性が低い原因の1つとして、PETaseが水に溶ける性質(親水性)を示す一方、PETは反対に水に溶けない性質(疎水性)を示すため、これらの間の接触が起こりにくいことが挙げられる。そこで本研究グループは、PET表面を親水的な分子で被覆することができればPETaseとの接触が改善されるのではないかと考え、親水的なPETaseと疎水的なPETとの間をつなぐ分子として界面活性剤(一つの分子内に親水性の部分と疎水性の部分を持つ物質)の利用を検討した。
界面活性剤には、洗剤等に用いられるような一般的な分子を選択。これを添加した条件下で、PET分解活性への影響を調べた。その結果、負に帯電する界面活性剤を添加した場合、PETaseの活性が著しく向上し、最大で100倍以上となることがわかった。必要な界面活性剤の濃度はわずか0.005%と極めて低く、非常に簡便かつ効率的にPET分解を加速できる手法と言える。
本研究成果は、簡単な操作で酵素のPET分解速度を劇的に向上することができるため、使用済みPET製品のバイオリサイクル技術の実用化、ひいては廃棄PETによる環境汚染の解決に大きく貢献することが期待される。