日本の火星探査計画に貢献したい!

白石:日本へ戻られたきっかけは?
青木:ベルギーでの研究を進める中、日本の火星衛星探査計画(MMX)を知りました。MMX(Martian Moons eXploration)は、世界初の火星衛星サンプルリターンミッションで、火星の月である「フォボス」からサンプルを携えて地球に帰還する計画です。2024年が打ち上げ予定で、このプロジェクトにどうしても携わりたいと考えていたところ、2021年4月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)のMMXプロジェクト研究員として採用していただきました。

 そして縁あって2022年4月からは、MMXプロジェクトの火星観測を主導されている東京大学の今村教授と同じグループで研究室を開設しました。MMXにより打ち上げられる衛星は、気象衛星ひまわりのように火星の赤道面を回ることで連続的に火星を撮影することができ、詳細な気象観測ができる点で非常に優れています。また、隕石の衝突などによって火星から舞い上がったチリもフォボスから採取するサンプルに含まれていると考えられていますので、それを解析すれば生命の痕跡(死骸)が見つかるのではと、今からワクワクしています。

 

なぜ研究の道に、その面白さと苦労【研究のきっかけと将来展望】

白石:日本、イタリア、ベルギー、そして日本へと、最適な研究環境を求め続けてこられていますが、そもそもいつ頃から研究者を目指すようになったのですか。
青木:最初にお話しした通り、高校時代にNHKの特集番組を見てからです。大学院修士課程では、一般企業での就職も考えましたが、「未知の事柄を世界で初めて知ることのできる喜び」や、「真実を科学的に検証する面白さ」を《味わい続けたい》と、研究者の道を目指しました。

白石:「世界で初めて知る」というのは確かに大きな魅力ですよね。一方で難しさも?
青木:惑星科学分野の研究では多くの研究者が一つのプロジェクトに関わりますので、様々なノウハウを共有できるメリットもある一方、テーマの奪い合いや連携ミスが起こってしまうという難しさもあります。あらためて「コミュニケーション」の重要性を再認識するとともに、常にチームのメンバーと情報を共有しながら相互理解を深め、研究を推進することに努めています。

白石:チームで働くことの良さと難しさですよね。最後に、研究の将来展望について教えてください。
青木:火星だけでなく他の惑星研究にも共通して言えることだと思いますが、観測技術の進展で観測精度が上がり、大気や表層環境、生命の起源などについて、これまでにない新たな情報が得られると期待されています。

 今は、広く地球型惑星に興味を持っているため、火星だけではなく金星の研究も少しずつ進めています。金星も初期には豊富な水が存在していましたが、火星同様、宇宙空間へ失われた可能性が指摘されています。金星は火星と異なり、観測データは豊富ではありませんが、灼熱の惑星であることから、急激な気温の上昇による温室効果が起こったという説が有力です。

 2030年前後にはヨーロッパやアメリカが相次いで金星探査機を打ち上げることが決まっていますから、それらのプロジェクトにも貢献したいと考えています。その先は、太陽系研究の知識ベースに、系外の地球型惑星の研究へと幅を広げていきたいと考えています。

 

 

高校生や大学生へのメッセージ

白石:最後に、高校生や大学生、未来の研究者にメッセージをお願いします。
青木:「こうなりたい、これがしたい」という気持ちを大切にして、その瞬間を逃さずに行動することが将来の道を開くカギになると思います。私の場合は高校生の時、NHKの火星特集番組を見た後にインターネットなどで情報を読み漁り、将来の展望を想い描いていました。

 同じような瞬間がいつ、どのような時にみなさんに訪れるのかはわかりませんし、それはおそらく、一人ひとり違うと思いますが、その瞬間に向けて準備をすることが大事だと思います。興味を持ったものがあれば、自分で訪れてみる、それについて先輩に話を聞く、本やインターネットから情報を得るなど、機会ときっかけを活かすことです。また、将来を想い描くのに時間を惜しまないことも大切ですね。

 ちなみに惑星科学・天文学分野に興味のある方にですが、惑星探査で採られたデータは、原則、半年後には公開すべきだとされていますから、誰でも見ることができます。例えば、NASAのプラネタリデータシステム(https://pds.nasa.gov/)では、難しいデータ以外にも、惑星探査機に搭載されたカメラで撮られた画像などを見ることができるのでお薦めです。

 

 

東京大学大学院 新領域創成科学研究科・講師

青木 翔平先生

東北大学理学部卒業、東北大学理学研究科博士課程修了。イタリア宇宙科学研究所(INAF/IAPS)博士研究員、ベルギー王立宇宙科学研究所(IASB/BIRA)博士研究員、リエージュ大学(ULiège)ベルギー国立科学研究基金研究員、宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所プロジェクト研究員を経て、2022年4月より東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻講師。令和3年東京大学卓越研究員(公募型)。國學院久我山高等学校出身。

 

京都大学大学院 農学研究科 助教

白石 晃將先生

2012年京都大学農学部卒業、2014年京都大学大学院農学研究科修士課程修了。修士課程在籍時、日本国際協力機構(JICA)を通じて短期青年海外協力隊としてバングラデシュに派遣。2015-2016年国連食糧農業機関(FAO)でのインターン及び2016-2017年日本学術振興会特別研究員を経て、2017年に京都大学大学院農学研究科から博士号(農学)を取得。また、同年京都大学大学院思修館プログラム修了。同大学院博士課程修了後、2017-2018年外務事務官として外務省経済局経済安全保障課に勤務。2018-2020年FAOジュニア専門官、2020-2021年FAO食品安全専門官を経て、2021年1月より京都大学大学院農学研究科助教、現在に至る。

 

 

 

 

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東京大学

明治10年設立。日本で最も長い歴史を持ち、日本の知の最先端を担う大学

東京大学は東京開成学校と東京医学校が1877(明治10)年に統合されて設立されました。設立以来、日本を代表する大学、東西文化融合の学術の拠点として、世界の中で独自の形で教育、研究を発展させてきました。その結果、多岐にわたる分野で多くの人材を輩出し、多くの研究成[…]

京都大学

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