高校生のみなさんは今、「勉強」に励んでいることと思います。しかし、将来「大学」という場所に進むと、そこでは単なる「勉強」ではなく、「研究」や「学問」という言葉が飛び交うようになります。これら三つは似ているようで、実は全く異なる性質を持っています。

 今回は、私が専門とする「学問論」の視点から、「学問」と「研究」の本質的な違いについて考えてみます。

1.「 勉強」から「学問」への脱皮

 まず、みなさんが今取り組んでいる「勉強」と「学問」の違いから整理するなら、一言で言えば、「問題を解く」のか「問題を生む」のかの違いです。 高校までの勉強は、教科書の中に必ず「答え(正解)」が用意されています。答えがある問題を解くことで知識を蓄えるのが勉強です。

 一方で「学問」には答えがありません。それどころか、「なぜ自分はこのような問いを持つのか」と自らの中に問題を生み出し、自分自身を見つめ直す営みです。学問とは、知識を増やすことではなく、「問いに学ぶ」姿勢そのものです。

2.「 研究」は職業であり、「学問」は生き様である

 次に、「研究」と「学問」の違いは何でしょうか。多くの人はこの二つを混同していますが、私の考えでは、これらは「追求する対象」も「表現手法」も根本から異なります。

 研究とは、特定の課題を解決したり、新しい法則を「説明」したりするどちらかというと職業的な営みです(この考えは私の論であり一般的でないかもしれせん)。その成果は「論文」という形式で発表されます。研究では対象を客観的に分析し「、どうなっているか(How)」や「なぜそうなるか(Why)」を論理的に突き詰めていきます。私の考えでは、これは「進化(進展)」ではありますが、必ずしも「深化」ではありません。

 対して学問は、職業ではなくその人の「生き様(よう)」や「本分」。学問が目指すのは単なる説明ではなく、「自分やこの世の存在の謎に触れることによる理解や認識の深化」。例えば、昆虫の研究を例に挙げるなら、ある蝶の生態を詳しく調べ新発見を論文にするのは「研究」です。そして、そこから「なぜ自分は蝶が好きなのか」「人間にとって昆虫とは、自然とは何なのか」と自己(=全人類)との関係にまで問いを深めるのが「学問」です。学問とは、自身の問いと観念的、歴史的、存在論的に誠実に向き合うものなのです。

 なお、慌てて書きますが、「学問」と「研究」は別物ですがバラバラではありません。徹底的に「研究」を突き詰めることでそれが「学問」に通じる扉となります。

3. 専門分野の壁を越える「普遍」の探求

 大学には多くの「専門分野」がありますが、どの専門の研究も極限まで深く突き詰めていくと、必ず「人間とは何か」「存在とは何か」という根源的な問いに行き着きます。 研究は数多くありますが、学問はただ一つです。真の学問とは、時代も人も超えた「普遍(何に対しても当てはまるすごく大切な何か、本質中の本質)」を探求することです。大学という場所が社会に存在することを許されている唯一の理由は、単に便利な技術を作るためではなく、この「普遍」に触れる機会を人々に提供しているからに他なりません。

 高校生のみなさんに一番伝えたいのは、学問とは決していわゆる文系に留まらないということ、「古臭い、役に立たないもの」ではないということ。むしろ、学問こそが「よく生きる(あるいは、よく死ぬ)」ための究極の実学です。

 大学の4 年間は、「働くため」にあるのではなく、「働くとは何か?」としっかり考えるためにあるのです。そうして「生きることそのもの」を問い直すことが許された貴重な時空なのです。おそらく2、3年生にもなると、インターンシップなど、働くことについて考えるようになる時代ですが、どうか、この「学問(精神)」を忘れないでほしい。自分という存在を知り、自分を無くすほどの深い思索を経て、それでもなお「自分はどうありたいか」という本分を自覚する。その覚悟を持って一歩を踏み出すとき、あなたの生きることと働くことは接続されるはずです。これからのみなさんの人生を最も豊かにしてくれるのは「学問」なのです。

京都大学 学際融合教育研究推進センター 准教授

宮野 公樹先生

1973年神奈川県生まれ。専門は、学問論、大学論。京大総長学事補佐、文部科学省学術調査官の業務経験も。近著「問いの立て方」(ちくま新書)。2025年5月、NHKによる7ヶ月間の取材が番組に(ETV「ねちねちと、問う―ある学者の果てなき対話—」)。

 

京都大学

「自重自敬」の精神に基づき自由な学風を育み、創造的な学問の世界を切り開く。

自学自習をモットーに、常識にとらわれない自由の学風を守り続け、創造力と実践力を兼ね備えた人材を育てます。 学生自身が価値のある試行錯誤を経て、確かな未来を選択できるよう、多様性と階層性のある、様々な選択肢を許容するような、包容力の持った学習の場を提供します。[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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