2026年4月1日、中央大学は、新たな研究推進組織「社会共創推進機構」を創設した。次世代を担う人材の育成とともに、“研究成果の社会還元”が大学の果たすべき社会貢献の大きな役割となるなかで、中央大学が目指す社会像の実現に向けて、“解決すべき課題”を明確に掲げた学際的研究組織「研究イニシアティブ」を設置、その第一号として「都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブ」を立ち上げた。

「研究イニシアティブ」とは、「研究チーム」や「研究グループ」とも言い換えることもできる。

 今回は、「研究イニシアティブ」の立ち上げにあたって、理工学研究科の手計太一教授、文学研究科の緑川晶教授、法学研究科の牛嶋仁教授にお話を伺った。

 

左から手計 太一 理工学研究科教授、緑川 晶 文学研究科教授、牛嶋 仁 法学研究科教授

総合大学としてのリソースを結集し、新たな研究スタイルへのチャレンジ

 「都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブ」は、気候変動や社会構造の変化に伴い日本が直面する複合的な災害リスクに対して、「都市の危機に、知と人で立ち向かう。」をテーマに研究を進める。総合大学としての中央大学が文理の枠組みを超えて都市防災や地域共創の最新知見を共有し、社会実装へとつなげる取り組みである。
3月に開催された設置記念シンポジウムでは、国内外の研究者や実務者が分野横断的に持続可能な都市コミュニティの将来像を共創する有意義な議論が交わされた。

 「都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブ」では、中央大学が長年取り組んできた、土木工学や水文学をはじめとする「都市防災研究」についての強みを活かし、「都市に暮らす人々の実践的な防災力の向上に資する研究」を推進することを目的としている。

 しかし、一口に防災・レジリエンス(強靭化)といっても、様々な側面、そしてアプローチがある。水文学、土木工学や河川工学はもちろん、行政の防災対策や法律の在り方、避難行動における住民心理や不動産の地理的条件や資産価値など、関連分野は多岐にわたる。

「首都直下地震をはじめ、頻度の高い水害、火災などの災害に対して、脆弱性が指摘される首都東京には、都市特有の居住空間や人と人の距離感のあり方が存在します。地縁の強い地方とは違ったこの距離感をどう災害に生かしていくのか。そのことについて考えようというのが、最初のきっかけでした」と話すのは、この研究イニシアティブの研究代表者である手計太一教授。手計教授は、「都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブでは、中央大学の全学部の先生方に学際的な研究として携わってもらい、総合大学としての力をここで結集できればと考えています」

 「例えば、河川の水害リスクの研究をする中では、やはりリスクがある場所からは移転した方が本当は安全です。しかし、法的に移転は可能か、現行法や憲法の枠内でどこまで許容されるのか、住民心理はどうかなど、多くの分野横断的な課題が存在しています。そのような様々な問題を法学研究科や文学研究科の先生方に投げかけて、研究会を行ったりしています」と話す。

 法学研究科の牛嶋仁教授は、「防災においては様々なリスクが存在します。“How safe is safe enough?” 、すなわち、どの程度安全を確保すれば安全と言えるのかということについては、それぞれの当事者には異なった意見があり、相対的な部分があるわけです。たとえ災害について技術的な証拠に基づいた説明があったとしても、それが社会的にどのように受け入れられるかは別の問題で、その課題は複雑です。そして、一つの分野の知見のみ利用していては、結局最適な仕組みを社会実装できずに終わってしまうでしょう。この『研究イニシアティブ』を通して、そのような課題について、うまく対応できればよいと思っています」と続けた。

 社会還元の面では「都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブ」では、すでにキャンパスを置く地区の行政との話し合いも始まっている。様々な人々が集まる大学として多様性に配慮した避難所運営への要望もあり、心理学や理工学分野の感性工学を取り入れたマニュアル制作にも取り組む。

 手計教授は「今回の研究成果が蓄積されていけば、中央大学のリソースを活かし、こうした分野横断の様々なテーマへの展開が期待されます」と話す。

「研究イニシアティブ」とは何か?そのポテンシャル

 「研究イニシアティブ」は、中央大学が培ってきたこれまでの様々な研究成果をベースにして「不確実性の高い時代」の研究に新たな可能性を創造し、“研究の成果の社会還元”という使命を負うとともに、大学院での研究の選択肢や領域を広げていく役割も担う。

 大学院では、各研究室において、個人あるいは研究室のテーマを掘り下げ、専門性を深めていくのが一般的だが、「研究イニシアティブ」では、研究室を超えて、さらには文理も超えて、各学部からも教員が集まり、各々の専門分野と連携して研究を進めていく。

 個人や研究室単位だけでは実現できなかった、連携することで見えてくる新たな知見や研究成果を生み出し、これまでにはない領域への展開が期待される。大学院生も、準研究員として研究イニシアティブに参加が可能だ。

 文学研究科の緑川晶教授は、「中央大学のさらなる強みとなるよう土壌を作ったというのが、今回の研究イニシアティブなのです」という。

 中央大学が推進する、総合大学としての有機的な力の結集の一つとして、大学院理工学研究科には副専攻制度が設置されている。大学院としても、授業で横のつながりが持てるように、文系科目も提供されており、文理を問わず全学の院生が履修できるようにしているのが特長だ。大学院の研究環境も変わりつつある。

 「大学院では、ともすれば大きな海の真ん中の一つの孤島のように研究に没頭してしまいがちです。研究イニシアティブのように、研究においていろいろなつながり、そして形があるということを知り、また参加できる環境があることは、若い人たちにとって非常に有益だと思います」と、緑川教授。

 日本では、学部を卒業して就職するのが一般的で、まだまだ大学院で研究する学生はそう多くはない。しかし、海外に目を向けると、欧米のみならずアジア各国でも、研究内容とその社会的活用が重視されている。今後、日本企業の国際化がさらに加速すれば、就職活動の競争相手は国内にとどまらず世界中の学生となってくるだろう。だからこそ、自身の将来を見据えながらどこで、その力をつけていくのかが大切になってくる。

 一つの研究がどれほどの広がりと多様性を持つものかを、異なる分野と連携することで、実感できるのが研究イニシアティブの魅力でもある。中央大学の新しい取り組みは、学生の様々な可能性を広げていくと期待される。

中央大学 社会共創推進機構
都市コミュニティレジリエンス研究イニシアティブ
手計 太一教授

専門分野/水工学、水文学
研究キーワード/タイ国、地下水、水文学、水資源学、治水

緑川 晶教授

専門分野/臨床心理学、実験心理学、基盤・社会脳科学
研究キーワード/神経心理学、機械心理学、発達障害、臨床神経心理学、認知症、高次脳機能障害

牛嶋 仁教授

専門分野/公法学、新領域法学
研究キーワード/公法学(憲法・行政法)、人権、法の支配、環境法政策、比較法、地方自治

 

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