MBAは経営学修士・経営管理修士の学位

一般にMBAと呼ばれるのは、「経営学修士」「経営管理修士」などの学位を取得できる大学院。大学院経営管理研究科などのビジネススクールでは、経営戦略、マーケティング、会計、ファイナンス、組織・人材マネジメントなど、企業や組織を動かすために必要な知識を体系的に学びます。ただし、ビジネススクールは経営用語や成功事例を覚えるための場所ではありません。仕事で直面する複雑な問題を整理し、理論やデータを使って考え、異なる立場の人と議論しながら、自分なりの意思決定を組み立てる力を養うことが大きな目的です。社会人大学院生が多く、管理職や経営者だけでなく、起業を考えている人、事業承継に備える人、専門職からマネジメント職へ役割を広げたい人、自分の実務経験を一度立ち止まって捉え直したい人にも開かれた学びです。

経営に必要な知識を横断的に学ぶ

 ビジネススクールでは、経営戦略、マーケティング、会計、ファイナンス、組織行動、人材マネジメント、オペレーションなどを学びます。企業経営を一つの分野だけでなく、複数の視点から考えられるようにするためです。例えば、新しい商品やサービスを立ち上げる場合、顧客のニーズを考えるマーケティングだけでは十分ではありません。採算性を検討する会計・ファイナンス、商品やサービスを提供する仕組みをつくるオペレーション、社員や協力先を動かす組織マネジメントなども必要です。

 MBAでは、これらの分野を個別に学びながら、最終的には関連づけて考えます。「売上を伸ばす」という一つの課題であっても、価格、ブランド、人材、組織体制、資金、競争環境など、複数の要因から捉える力を身につけていきます。会計やファイナンスに苦手意識を持つ人もいますが、多くの大学院では基礎科目から段階的に学べるように設計されています。文系・理系や出身学部だけで向き不向きが決まるわけではありません。ただし、数字を避けて経営を学ぶことは難しいため、苦手な分野にも向き合う姿勢は必要です。

 大学院によっては、起業、事業承継、デジタル変革、地域経営、医療・福祉経営、観光経営など、特定のテーマを深く学べる科目もあります。科目数の多さだけでなく、自分が向き合いたい課題とカリキュラムが合っているかを確認しましょう。

正解のない課題を議論し、意思決定する

 MBAの授業では、教員の講義を聞くだけでなく、企業事例を読み解くケースメソッド、グループワーク、プレゼンテーション、ディスカッション、フィールドワークなどが多く取り入れられます。実際の経営課題には、唯一の正解がないことも少なくありません。値下げによって販売数を伸ばすのか、価格を維持してブランド価値を守るのか。新規事業へ投資するのか、既存事業の収益改善を優先するのか。どの選択にも利点とリスクがあります。

 授業では、限られた情報をもとに状況を分析し、自分なりの結論を出して、その理由を説明します。他の大学院生から反論を受けたり、別の視点を示されたりすることで、最初の考えを修正することもあります。異なる業界、職種、年代の大学院生と議論すると、自分の職場では当然だった考え方が、別の組織では通用しないと気づくことがあります。MBAにおいて、同級生は単なる仲間ではなく、重要な学習資源でもあります。

 そのため、大学院選びでは教員や科目だけでなく、大学院生の構成も確認したいところです。若手会社員が多いのか、管理職や経営者が中心なのか。業界や職種に多様性があるのか。どのような人と学ぶかによって、同じ教材を使っても議論の内容は変わります。

実務経験を理論で捉え直し、言葉にする

 社会人がMBAで学ぶ大きな意味は、すでに持っている実務経験を、経営学の理論や概念を使って捉え直せることにあります。仕事の中では、「これまでこの方法でやってきた」「経験上、こちらのほうがうまくいく」と判断することがあります。実務では、そうした経験や勘が重要です。一方で、それを他者に説明したり、別の状況に応用したりするには、判断の背景を言葉にする必要があります。

 MBAでは、自分が経験してきた成功や失敗を、組織論、マーケティング、リーダーシップ、競争戦略などの視点から読み解きます。「なぜうまくいったのか」「環境が変わっても同じ方法が使えるのか」「別の選択肢はなかったのか」と問い直すことで、経験を再現可能な知識へと変えていきます。

 大学院によっては、自社の経営課題をテーマに研究したり、新規事業計画を作成したりする科目もあります。授業で得た視点を翌日の仕事で試し、職場で得た気づきを再び大学院へ持ち帰る。その往復が、社会人大学院ならではの学びです。ただし、大学院は経営相談所ではありません。教員から自社の問題に対する答えを教えてもらうのではなく、自分で問いを立て、分析し、答えを組み立てるための方法を学ぶ場所です。

「MBA」と呼ばれる教育にも違いがある

 初心者が注意したいのは、経営を学べる大学院がすべて同じ仕組みではないことです。「ビジネススクール」や「MBA」という言葉が使われていても、大学院の種別、授与される学位、教育方針、修了要件は学校によって異なります。専門職大学院として実務家教育を重視する大学院もあれば、一般の経営学研究科や商学研究科として、理論や研究を重視する学校もあります。修了時の学位も、「経営管理修士(専門職)」「経営学修士」「商学修士」など、学校や課程によって異なります。

 修了成果についても、修士論文を作成する大学院、課題研究やプロジェクトレポートを提出する大学院、事業構想書やビジネスプランをまとめる大学院などがあります。「MBAは論文を書かなくてよい」と一括りにすることはできません。また、修士論文がない大学院であっても、調査、分析、文献の検討、文章化が不要とは限りません。提出物の名称が違うだけで、相応の学術的・実務的な検討が求められる場合があります。

 学校案内を見る際は、「MBAが取れるか」だけでなく、正式な学位名、研究科や課程の種別、修了要件、最終成果物の内容を確認しましょう。

入学後の学びは、授業時間だけでは終わらない

 社会人向けMBAには、平日夜間や土日、オンラインで受講できる課程が多くあります。しかし、通学しやすい時間割であっても、負担が軽いとは限りません。ケース教材の読み込み、文献調査、レポート作成、発表準備、グループワークなど、授業外で取り組む課題があります。特に討議型の授業では、十分に予習をしてこなければ、議論に参加することが難しくなります。

 グループワークでは、授業日以外にメンバー同士で集まることもあります。オンラインで打ち合わせができても、仕事、家庭、学業の予定を調整する必要があります。そのため、学校選びでは授業時間だけでなく、週あたりの標準的な学修時間、課題の量、グループワークの頻度、欠席時の扱いなども確認しましょう。可能であれば、説明会で在学生や修了生に、実際の学修時間を聞いてみると参考になります。

MBA取得後のキャリアを具体的に考える

 MBAは、取得すれば自動的に昇進や転職が約束される資格ではありません。学位そのものよりも、学んだ知識や思考法を、現在の仕事や将来のキャリアにどう生かすかが重要です。また、多くの修了生は、大学院で得た大きな財産は「人脈だ」と語ります。

 ビジネススクールに入学する目的には、管理職としての力を高めたい、経営者や後継者として会社を成長させたい、新規事業を立ち上げたい、起業や転職に備えたい、専門職として経営の視点を身につけたいなどがあります。入学前には、「MBAを取得したい」というところで止まらず、「MBAで何を学び、仕事や人生をどう変えたいのか」を考えておきましょう。目的が明確であれば、選ぶべき大学院や科目も見えやすくなります。

 学校を比較する際は、カリキュラム、授業方法、教員の専門分野、受講生の構成、修了要件、修了生の進路などを確認します。説明会や体験授業に参加すれば、ウェブサイトだけでは分からない授業の空気や学生同士の距離感もつかめます。

 MBAは、経営の正解を教えてもらう場所ではありません。自分で問いを立て、複数の選択肢を比較し、根拠を持って答えを組み立てるための「思考の型」を身につける場所なのです。

 

文:たねとしお

社会人大学院や通信制大学など、社会人向け学習情報誌・WEBサイトの編集に長く携わる。「仕事力」をテーマにした新聞連載をはじめ、これまでに累計5,000人以上にインタビューを行う。会社経営の傍ら社会人大学院に通学し、2024年にMBAを取得。「学びで人生を豊かに生きる」をテーマに、社会人の学びに関する発信活動を行っている。インターネットラジオ「ゆめのたね放送局」『社会人大学院へ行こう』番組パーソナリティ。株式会社案 代表取締役社長。学校経営ディレクター(京都大学私学経営アカデミー)。

 

大学ジャーナルオンライン編集部

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