そろそろ夏休みを迎える時期になりました。ここではまず、この一年間における、AI(人工知能)の進展と、それが教育現場に与える影響について振り返ってみました。
わずか一年の間に、AIはここまで進化した
最も大きな変化は、「AIエージェント」の爆発的な普及です。
AIエージェントとは、与えられた目的に向かって自律的にファイルを読み書きしたり、ウェブを操作したりしながら、複数の手順を組み合わせてタスクを遂行するAIです。先駆けとなったのが、Anthropic社が2025年2月にプレビュー版として公開した「Claude Code」。OpenAI社の「Codex」がこれを追い、コーディングの現場は一変しました。今では、自然言語で指示するだけで、AIが数時間にわたり自律的に開発を進めることも珍しくありません。しかもこの波はコーディングにとどまらず、あらゆる作業へ波及しています。

これらのAIエージェントは、PCを使ったあらゆる作業を自律的に行うことができます。受信箱を確認してメールに返信し、SNSへ投稿し、ECサイトで商品を注文する──こうした日常的な作業も、依頼して席を離れている間に済ませてくれるのです。ファイルを開き、文字を打ち、クリックする──PC上の作業の大半がAIに代替される未来は、目の前の現実になりつつあるのです。
エージェントの基盤となるAIそのものの性能も目覚ましく向上しています。OpenAIの「GPT-5」(2025年8月)以降の各モデルでは、もっともらしい嘘=「ハルシネーション」が大幅に減少しました。また、Claudeが2025年9月にPowerPointファイル(.pptx)の直接生成に対応するなど、スライド資料そのものを作る能力も実用段階に達しています。さらに、2026年4月にAnthropic社が発表した次世代モデル「Claude Mythos」は、強力なサイバー攻撃能力への悪用が懸念され、一般公開されませんでした。
こうした進展は、決して偶然のものではありません。元OpenAI研究者らが2025年4月に公表した未来予測シナリオ「AI2027」や、Anthropic社CEOのDario Amodei氏らAI開発の最前線に立つ専門家たちは、早ければ2026〜2027年にも汎用人工知能(AGI)が到来すると予測していましたが、現実はおおむねその通りに進んでいます。このようなAIは、もはや「対話相手」ではなく「働き手」、そしてやがては「人間を超える知能」へと姿を変えつつあると考えられ始めています。
AIで激変する教育現場
「AIエージェント」のこのような爆発的な普及は、学校教育の現場にどのような影響を与えているのでしょうか。筆者の身の回りの限られた範囲においても、その影響を着実に感じ取ることができます。筆者の勤務する秋田県の県立学校ではGoogle Workspaceを一括採用しています。生徒や教員は県や学校のガイドラインの範囲内で、GoogleのAI(Gemini)を使うことができます。生徒は、探究活動だけではなく、部活や学校祭などの様々な場面でAIを積極的に使い、役立てているようです。

以下はある(架空の)高校の「総合的な探究の時間」の風景です。
……生徒は教室の机を「田」の字に向かい合せ、4人のグループを編成して「テーマ設定」に取り組んでいます。4人は黙々とAIに質問を入力しています。会話はほとんどありません。教室には先生が1~2名程度配置されていますが、「主体的な学習」が良しとされているため、積極的に口を出しません。グループワークの形をとっているものの、教室内に会話はなくとても静かです。
また、別の場面では、生徒は研究論文の執筆に取り組んでいます。先生からは「AIの出力を直接使ってはいけない」と言われていますが、論文執筆は初めての経験で、どうまとめればよいか全く見当がつきません。自分ではどうしようもないのでAIに論文を書かせ、自分で書いたように適当に加工して提出してみました。先生から返ってきたのは「AI使ったね」という指摘。その生徒は再提出を求められました。
ファシリテーターとしての教師
上の教室風景では、生徒はAIを信頼できる道具として積極的に使おうとしており、だからこそAIと向き合って、探究活動のテーマに関するアイデアを探し出そうとしています。しかし、それだけではすぐに行き詰まります。効果的に探究活動を進めるためには、自分たちの考えや、AIとの会話から得られた情報を整理した上で、「次のステップでなにを行うべきか」を意思決定する必要があります。そのためには、いったん画面から目を離し、現実世界へ「戻り」、仲間や指導教員とディスカッション(議論)する必要があります。
しかし生徒は、基本的にディスカッションに不慣れです。もちろん、学級活動、部活動、授業等での経験はあるものの、探究活動におけるディスカッションのハードルは、はるかに高い。扱っている題材が学問や社会の問題に直結していてとても複雑だからです。そこで生徒は「何について話しているのか」もわからないまま進めなければなりません。これは他の活動では体験したことのない難しさです。
今、探究活動を指導する教師には、このような活動を手助けする「ファシリテーター」としての役割が求められています。ファシリテーターとは、「何をすべきかを指示するのではなく、課題について一緒に考えたり助言したりすることで、相手が物事をより取り組みやすくなるよう支える人」とされ、教育分野ではアクティブラーニングの文脈などで用いられてきました。

これまで教師は、知識の伝達者として「舞台上の賢人」などと呼ばれてきました。しかし、超高性能なAIが身近にある今、その役割はAIに任せ、自らはファシリテーターとして振る舞えばよいことになったのです。ミニ発表会を行う、得られた情報をふせんやホワイトボードで整理するなどの学習活動(アクティビティ)を、臨機応変に組織するのです。
もちろんファシリテーターとしての探究指導法の歴史は浅く、筆者も手探りの状態です。また、教育現場で安全・安心にAIを使うための指導法についても、運営しながら蓄積していくしか方法はありません。しかし、少なくとも、AIが導入されてからの探究活動の質は着実に向上していると実感しています。その証拠に、画面から目を離し、頭と体を動かす生徒の顔は笑顔に溢れ、活き活きとしています。
このようなAIとの関係や授業の展開が、より良い方向に向かうことを願いつつ、実践を重ねていこうと思います。
秋田県立横手高等学校 教諭
瀬々 将吏さん
1991年 広島大学理学部物理学科入学、1995年 大阪市立大学大学院理学研究科前期博士課程物理学専攻入学、1997年 同研究科後期博士課程物理学専攻入学、2003年 単位取得退学。博士(理学)。2003年12月 大阪市立大学数学研究所 研究員、2004年12月 京都大学基礎物理学研究所 非常勤研究員/研修員/非常勤講師、2005年10月 慶應義塾大学 研究員、2006年9月 国立台湾大学 研究員、2008年4月 秋田県立横手清陵学院高等学校教諭、2020年4月から現職。兵庫県立芦屋高等学校出身。